(7)古い真理:アジリティはテクノロジーのプロセスである

 新しい真理:アジリティは最新のマーケティング手法である

 技術開発には逐次的で直線的なウォーターフォール型のアプローチではなく、アジャイル型のサイクルが効果的であることは、以前から言われている。新型コロナウイルス危機は、マーケティングにも同じように敏捷な発想を採用するという不可逆的なトレンドを生んだ。

 危機が進行するにつれ、企業は自分たちのメッセージが間違っていたり、サプライチェーンが機能できる状態になく、広告や広報の危機(あるいは双方の危機)を生んでいることを速やかに理解できるようになった。

 たとえば、ソーシャルディスタンスを無視して人々が密集しているCMもその一つだ。長い準備期間を費やすコンテンツ制作のプロセスと年間予算のサイクルが突然、時代遅れに感じられるようになり、従来のあらゆる承認の力学が制約を受けるようになった。

 今回の危機がもたらした幸運な結果は、マーケティングにおいてもアジリティの発想が生まれ、定着しそうなことだ。

 消費者の声の収集分析やデマンドセンシング(需要予測)を継続的に行うこともアジリティの一つである。これはマーケティングのためだけでなく、時代を反映した消費者感情を企業として把握するために行われる。業務面では、意思決定サイクルの短縮や、クリエイティブ、予算、メディアなど主な分野で柔軟性を高めることが含まれる。

(8)古い真理:ブランドは優れた製品を支える

 新しい真理:ブランドは優れた価値観を支える

 パンデミックはブランドロイヤリティにも深刻な影響を与えた。

 EY Future Consumer Indexでは、カテゴリーにもよるが、61%の消費者がブランド名のないホワイトレーベル製品を積極的に検討するようになったと答え、言うまでもなく有名ブランドからの乗り換えもある。こうした動きと、2020年の社会不安に端を発した消費者の意識と行動の高まりが相まって、ブランドは自分たちが表現する価値を強く意識するようになるはずだ。

 EYの調査が示す通り、消費者の選択において、品質、利便性、価格は依然として非常に重要だが、その一方で、持続可能性、信頼、倫理的な調達、社会的責任などの要素が、商品やサービスを選択する際にますます重要になっている。

 ブランド選好性が一変したパンデミック後の市場で差別化を図るために、ブランドの価値が重要であることを、マーケティングを通じてより多くの経営幹部に(さらには取締役会に)教えることができるだろう。

(9)古い真理:現代のマーケティングを成功させるためには適切な技術スタックが必要だ

 新しい真理:現代のマーケティングを成功させるためには(技術スタックを含む)さまざまな要素の適切なバランスが必要だ

 広告やマーケティングの技術が増殖して氾濫するいま、いわゆる「技術スタック」が、マーケティングを根本から変える呪文のように思われがちだ。しかし、フェラーリを持っていても時速40マイルしか出せなければ、あまり意味はない。

 テクノロジーを構築する開発環境を具体的な成果に結びつけるためには、その成功を支える十分な規模のデータ、成果につながる適切なユースケース、さらには「ヒューマン・イネーブルメント」の適切なアプローチが必要になる。

 このうち最も重要なのは、ヒューマン・イネーブルメントだろう。これには、データやテクノロジーが組織全体でどのように使われるかを理解して、効果的に活用するために適切なスキルを教育し、イノベーションと成功への意欲を高めるために適切な評価手法を導入することも含まれる。

 テクノロジー、データ、ヒューマン・イネーブルメント、ユースケースの均衡が取れていなければ、マーケティングテクノロジーの理想的な投資利益率は実現しない。

(10)古い真理:マーケティングは成長のために重要である

 新しい真理:マーケティングは経営幹部の成長アジェンダの中心である

 マーケティングが原価管理の一部であり、投資利益率の最大化が企業の主要なアカウンタビリティ(説明責任)とされた時代があったことは間違いない。収益が悪化する厳しい時期に、マーケティングは真っ先に予算を削減される分野の一つだった。

 しかし、今回のパンデミックに際し、マーケティングはデジタル・トランスフォーメーションの推進力として、カスタマージャーニーの重要な牽引力として、消費者の声として、経営幹部にとって重要度が高まっている。いずれも機能的リーダーリップを発揮するための重要な要素だ。経営幹部は、良いときも悪いときも市場の時代精神を理解していなければ、目の前の脅威と機会に適応しながら、進むべき方向を見出すことはできない。

 新型コロナウイルス危機は、レジリエンス(再起力)の獲得という喫緊の課題のために、迅速なコラボレーションを率いるリーダーシップの文化を創出した。その対話において、マーケティングは常に中心的な役割を担い、組織のより広範な成長とイノベーションを推進する機会となっている。

理論と実践

 マーケターには理論と実践を継続的に融合させる責任がある。人間と自動化の完璧なバランスを実現して、より優れた分析とAIの大規模な導入という未来を切り拓かなければならないのだ。

 さらに、データを燃料にして、ストーリーテリングの技を尊重しながら、人と人との有意義なつながりを育てなければならない。ブランドマーケティングとパフォーマンスマーケティングの繊細な境界線の上で綱渡りをしながら、容易に定量化できるものに偏重しやすいことを理解する。そして、一元化すべきものと個別化すべきものを区別して、一貫性が有用なところと妨げになるところを見極めなければならない。

 これらの新しい真理は、その融合を体現し、コロナ後の世界で成長を牽引するために必要な戦略とオペレーションとテクノロジーの合流点を浮き上がらせる。これらの真理を受け入れることが、パンデミックからの回復と長期的な成功への道を示す。

 従来のやり方に慣れている企業やマーケターは、調整のための時間が必要だろう。しかし、この流動的な時代にあっても、最も簡潔で重要な真理の中に、昔から知っている足がかりを見出して自信を持てるはずだ──いまもこれからも、顧客の視点が最も重要であり、最優先させなければならないのだ。

記事は筆者の見解にもとづき、EYのグローバルな組織やメンバーファームの見解を必ずしも反映するものではない。


HBR.org原文:10 Truths About Marketing After the Pandemic, March 10, 2021.