Illustration by Michelle D'Urbano

不確実性の時代に企業が生き延びるには、予期せぬ状況で瞬時に決断し、迅速に行動する能力が欠かせない。すなわち、即興力だ。しかし、企業が即興スキルに重点を置いて採用活動を行なったり、研修プログラムに取り上げたりすることはほとんどない。そこで筆者らは、即興力を高める方法を探るために、2年間にわたって、「LARP」と呼ばれるリアルな物理空間で展開される体験型ゲームを観察し、実際のプレーヤーにインタビューを行った。その結果から明らかになった即興スキルの3つのタイプと、それぞれの上達プロセスを紹介する。


 あなたは危機に対して、どのように対応しているだろうか。突然、いままで通りのやり方では通用しなくなった時、どう対処すべきか。

 企業が不確実性の時代を生き延びるには、マニュアルや指示に頼らず、自分自身で瞬時に決断を下し、迅速に対応できるマネジャーと従業員が欠かせない。つまり、優れた即興(インプロヴィゼーション)の使い手が必要であることを意味する。 

 成熟度が高く、標準化された業務やプロセスは、即興とは相容れないように感じるかもしれない。人材を採用する際に即興スキルを問うことはあまりなく、従業員研修プログラムにおいても、即興スキルではなく、リーダーシップスキルや専門能力の開発に重点が置かれる。

 しかし実際のところ、即興は組織のアジリティ(敏捷性)を高めるカギである。即興に長けたマネジャーや従業員こそが、技術的ブレークスルーから国際取引に関する法改正、環境災害、そしてコロナ禍で山積する課題まで、さまざまな危機やパラダイムシフトを乗り越えるべく、企業を牽引する。

 当然のことながら、即興スキルを高めることは容易ではない。米国の名高い即興コメディ劇団でコンサバトリーを運営するセカンドシティで芸術監督を務めるジョシュア・ファンクいわく、「即興の上達には、何年もの努力を必要とする」。だが、たしかに険しい道ではあるものの、上達することは少しも不可能なことではない。

 筆者らが最近発表した研究では、どうすれば誰でも即興力を高めることができるかを探るため、どのようなタイプの即興スキルが存在するかを調査し、即興スキルやその上達プロセスを加速または阻害する要因について徹底的に分析した。

 これらの疑問は、従来型の組織で観察調査を行なっても、解明できるとは考えにくかった。なぜなら、即興とは本質的に無計画なものであり、仕事の妨げとして片付けられることがほとんどだからだ。しかも公式な仕事の場では、外部から観察するのは難しい場合が多い。

 同様に、現実世界での即興を実験室実験によって再現しようとしても、難しかっただろう。なぜなら、人工的につくられた環境と実際の仕事環境とでは、まったく異なるはずだからだ。

 そこで筆者らは、即興がごく普通に行われ、観察できる可能性が高く、職場に比較的似ている場として、「LARP」(Live Action Role-Playing)を研究対象に選んだ。

 LARPとは人気ドラマシリーズ『ウエストワールド』の舞台である体験型テーマパークを訪れるゲストのように、参加者が実際の物理空間で特定のキャラクターを演じながら他者と接触する体験型ゲームである。

 LARPのプレーヤーは、筋書きと他のプレーヤーの自発的な動きの両者によって、次から次へと起きる変化や予想外の展開に、その都度即興で対応させられる。その意味で、このゲームは想像以上に企業社会と酷似している。

 さらに、筆者らが調査したLARP『ヴァンパイア:ザ・レクイエム』は、思いもしなかった戦略上の問題や権力争い、リソースをめぐる交渉、政治的同盟などに直面したプレーヤーが下す瞬時の判断に焦点を置いている。言ってみれば、マネジャーや従業員が日々関与しなければならない咄嗟の問題解決と、非常に似通った意思決定プロセスが見られるのである。

 このLARP環境でデータを収集するため、筆者らは2年間にわたって3つのLARPグループにアプローチし、外部観察者とゲーム参加者の両役を演じた。プレーヤーに対する数十回のインタビューと100時間以上に及ぶ観察記録により、プレーヤーがLARP環境でどのように即興力を高め、そのスキルを発揮したのか、その全体像を把握することができた。