図表の左は日本経営でよく用いられている従来型の方式。右はリーン方式、中国や欧米の先進的な企業の経営だ。事前合理性/計画合理性の追求vs事後合理性/修正合理性志向という構図になっている。ビジネスモデルの潮流は左から右へシフトしており、伝統手法からリーン方式へ、自前主義からオープンイノベーションへ、価値連鎖からプラットフォームへ、物販からサブスクリプションへ、有料からフリーへ、所有からシェアへと、大きく六つのパラダイムシフトが起こっている。だが、多くの日本企業はこれらを追いきれていない。

 一方、新規事業の創出に成功している日本企業にはいくつか特徴がある。たとえば全社的に試行錯誤のサイクルをうまく回している、海外の子会社で実験した結果を本社に持ち込む、サブスクで好循環と構造優位のビジネスモデルになっている、フォーマルにアイデアを募集して取り込む、などである。

 ビジネスに管理は不可欠だが、「ルールによる管理とプリンシプル(原則や価値観)による管理の二つがあります。前者は冷たい管理、後者は温かい管理ともいえます」。日本企業に多いのは、これはだめと細かくマニュアル化するルールによる管理だ。プリンシプルは“Think different”といった標語やイズムのようなものだ。社員がそれを自由に解釈して自律的に行動するので、新結合の機会が増えイノベーションが生まれやすい。

新規事業だけ分離して
「野生」の環境で試行錯誤

 管理による安定性は大手企業の強みでもあった。ただ、新規事業に関しては管理しすぎないことが肝要だ。両利きの経営のように既存事業(深掘り、安定、冷たい管理)と新規事業(探索、温かい管理)という正反対のものを一つの企業内に共存・両立させるのは至難の技である。事業ドメインを分けるか、いまはイノベーションを興す時期、次年度は収益化する時期などと時間軸で分けるかのいずれかの方法で、新規事業を既存事業から分離させることが必要だ。

 そもそもイノベーションは従来の常識の外にあり、「マネジメント(管理)によるイノベーション創出」は語義矛盾ともいえる。「ほとんどの生物は野生の状態にあったから進化できたのかもしれません。管理され飼育されていると進化できない」。人類学の泰斗レヴィ・ストロースの『野生の思考』には、ありあわせの素材を組み合わせ、新しく必要なものをつくり出す(ブリコラージュ)思考が述べられている。

 たとえば新規事業を「野生」環境、自社の「周辺、周縁」に置けるかどうかが成功のカギを握ると井上教授は提言する。CV(コーポレートベンチャリング)にしたり、スタートアップに出資・協業したりすることで、スタートアップという異文化に触れる経験から得られるものは計り知れない。「中国のテンセントやアリババが成長し続けているのは、新規事業のスタートアップに出資したり買収したり、外の血と触れるなかで多くのものを吸収しているから」。自社でやりきれなければ、上手に外の力を使えばいいのだ。

 新規事業では人材育成も課題だが、「仮説検証などは技術であり、経験すればいい。知識として学び、小さなサービスなど業務の中に組み込んで使っていくのがよいでしょう」。

 コロナ禍後、うまくイノベーション競争に乗れれば日本企業にも巻き返すチャンスがある、と井上教授。「豊富なアセット、優秀な人材など、大企業にはイノベーションに必要なものは実はすべてそろっている。それらを組み合わせ、ときに外の力を借りて、どんどん試行錯誤の経験を積めばいい。決して不可能なことではありません」。