分断が進む社会で
共感の重要性を知る

竹内弘高
Hirotaka Takeuchi
ハーバード・ビジネス・スクール教授
1946年東京都生まれ。69年国際基督教大学卒業。71年カリフォルニア大学バークレー校にてMBA、77年同校にてPh.D.取得。ハーバード・ビジネス・スクール助教授、一橋大学商学部教授、同大学大学院国際企業戦略研究科初代研究科長などを経て現在、ハーバード・ビジネス・スクール教授。一橋大学名誉教授。2019年より国際基督教大学理事長を兼務。グローバル企業との実務経験もあり、ダボス会議をはじめとする国際会議にスピーカーとして数多く出席している。主な著作に『ベスト・プラクティス革命』(ダイヤモンド社)、『企業の自己革新』(共著、中央公論社)、“The Knowledge-Creating Company”(共著、Oxford University Press [邦題『知識創造企業』東洋経済新報社])“Can Japan Compete?”(共著、Basic Books [邦題『日本の競争戦略』ダイヤモンド社])、“Extreme Toyota”(共著、John Wiley & Sons [邦題『トヨタの知識創造経営』日本経済新聞出版者])、“The Wise Company“(共著、Oxford Univ Press, [邦題『ワイズカンパニー』東洋経済新報社])などがある。

――ファーストリテイリングの柳井正・代表取締役会長兼社長も、今回のイベントに参加しましたね。

 ありがたいことに、柳井さんはプログラム1年目から、毎年学生を本社に招いてくれています。そこでは学生からの質問を受けるだけではなく、柳井さんからも質問が投げかけられます。ディスカッションを通じて、柳井さんも学生から何か得ようと、強い好奇心を持ってこのプログラムに関わっていただけているのです。

 ほかにも、HBS出身の新浪(剛史・サントリーホールディングス社長)さんも、後輩の学生によく接してくれており、日本特有の「先輩と後輩」の大事さを伝えてくれています。

 もちろん大企業だけではありません。多くの現地の企業や団体、卒業生たちが我々のプログラムに共感し、支え続けてくださったので、いまにつながっているのです。

――須田善明・女川町長も、この活動が9年間にわたることについて触れられていました。長く続いた理由について教えてください。

 やはり、須田町長のような地域の方々が「ウェルカム」と招いてくださるからでしょう。町長は私たちの宿泊先の旅館にまで来て、学生と一緒に酒を酌み交わしてくれたこともありました。

 ほかにも、ヤクルトレディの方々について仮設住宅を回ったり、廃校になった小学校を再生した自然学校に泊まったり、地元の材料を使ったオーガニック石鹸メーカーなどの地元企業を訪ね歩いたりしました。

 また、起業家支援を行う「INTILAQ 東北イノベーションセンター」や、女川の社会課題の解決に挑むNPO法人アスヘノキボウの人々との交流も、かけがえのない経験につながっています。

 先にも述べたように、学生たちは「世界を変えるリーダー」となるために学んでいるわけで、自分たちで何かスタートアップをやりたいと思っているし、社会貢献をしたいとも考えています。東北で実際にそうした活動をする人たちと交流することで、目から鱗の思いをして帰るのです。

 それも毎年、継続的に訪ねるので、地域の方々の共感も育まれます。学生にとっても「仮設住宅で暮らすおばあちゃんまで迎えてくれる」とハーバードで学ぶ意義を感じられるので、続けられてこられたのだと思います。この時代に合った授業を提供できていると考えています。

――HBSの学生は、日本という、ある種の共感社会から生まれた価値観や文化に触れ、共感の重要性を知ることができるというわけですね。

 ええ、学生は世界のさまざまな国から集まっており、いまの米国社会を少しおかしいのではないかとも感じています。特にトランプ政権で「分断」されてしまった社会を、です。

 もちろん米国だけではありません。中国人の学生も多数おりますが、その中国内でも実は分断が進んでいるのです。

 それが東北は違う。被災して決して恵まれているわけではない方々であっても、礼儀正しく振る舞い、目を輝かせて仕事をしている。

 福島成蹊高校に訪れた時もそうです。バスが出発する見送りの時、生徒や職員の皆さんが並んで手を振ってくれます。そうしたホスピタリティに触れて心が揺さぶられる学生も少なくありません。

 私は国際基督教大学(ICU)の理事長も務めていますが、仏教徒であろうと、キリスト教徒であろうと関係ない。宗教や人種、国を超えた普遍的な価値観というものが存在します。日本に来たHBSの学生は、そこに気づくことができるのです。

――HBSでは今年ノーリア学長が退任し、新学長が就任しました。今後もプログラムは続くのでしょうか。

 来年からは、縮小どころか、「70人前後まで学生数を増やしてもらいたい」という要望が来てますよ(笑)。

 さすがに1人で引率するのは大変ですから、別の教員の手も借りて実現したいと思っています。