ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)は、2012年から東北で実践型のプログラムを展開している。2021年3月には、プログラムに参加したHBSの卒業生と、その支援者たちが一堂に会するオンラインイベント「HBS Japan IXP/IFC Online Reunion」(青山ツリーハウス協力)が行われた。東日本大震災から10年を経たいまもなお、なぜハーバードの学生が東北で学び続けるのか。両者がつながり続ける理由を、プログラムを主宰するHBSの竹内弘高教授に尋ねた。(聞き手:小島健志・DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部副編集長)

東日本大震災から10年続く
ハーバードと東北との関係

――ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の卒業生ら100人以上がオンラインで集まり、東日本大震災の被災者を偲び、20秒間の黙祷を捧げました。この時、竹内先生は何を思い浮かべたのでしょうか。

 HBSには、フィールド・スタディと呼ぶ実践型プログラムがあり、2012年以来、9年間にわたり毎年、東北地方を訪れています。

 今回、そのプログラムに参加した卒業生を集め、犠牲になった方々のご冥福をお祈りしました。その時、東北でお世話になった方々の顔が浮かんできました。

 今年のプログラムは新型コロナの影響で開催ができなかったのですが、来年は必ず行くぞと思い直しました。

――そもそもなぜ、HBSが東北と関係を持つようになったのでしょうか。

 ハーバードの教育法といえば、「ケース・メソッド」が浮かぶかもしれません。組織が抱える課題について具体的に記述されたケースを教材にし、教授がファシリテーターとなり、多様なバックグラウンドを持つ学生たちが議論を通じてその学びを深めていくものです。

 かつて、HBSを卒業した学生の多くは、ケースで学んだ知識や分析力を活かして、ゴールドマン・サックスやマッキンゼー・アンド・カンパニー、GEやIBMなどの大手企業に進みました。

 しかしながら、いまは企業派遣を除くと、卒業生のおよそ7割が「1人のHBS卒業生しか雇わない組織」に就職しています。これはつまり、卒業後は大企業に進むというよりも、スタートアップ企業を立ち上げたり、NPOや中小企業・団体に進んだりするということです。

 一方、2008年に端を発した世界金融危機は、ウォールストリートが震源地となりました。HBSはここに多数の卒業生を輩出していたのです。HBSは「世界を変えるリーダーを育成する」と掲げているのに、果たして正しかったのだろうか。この時代に合った教育が行えているのか、と考えるようになりました。

――2010年に学長に就任したニティン・ノーリア教授は、Knowing(知識)から Doing(実践)へ、さらにBeing(生き方)へと移行し、知識偏重型教育のバランスを取り戻そうと、改革を進めてきました。

 そうです。インド出身の彼は、日本によく来ていました。父親が日本の経団連のような経済団体トップをしていたからです。MIT(マサチューセッツ工科大学)で学んだ時も、彼の指導教官が日本研究の専門家でした。やはり東洋的な発想が彼の根底にあったのだと思います。

 そこで新しい教育の柱となったのが、このフィールド・メソッドだったのです。

 HBSにはおよそ1学年900人の学生が毎年入ります。HBSは、やると決めたら徹底的にやるという文化なので、プログラムの1年目からこの人数の学生を世界中の国々に送り込みました。教員たちが卒業生らの縁をたどり「プロジェクトができるところを用意してくれませんか」と頼み、実現させたのです。

 その後も、実践型のプログラムは、選択科目としてさまざまな国やテーマで行われてきました。教室から飛び出して、授業で学んだことを現場で実践する。当初は、IXP(Immersion Experience Program)と呼ばれ、2016年からはIFC(Immersive Field Course)と改名しました。その派遣先の一つが日本だったのです。

 私が引率するコースは毎年1月に12日間、近年では学生44人が日本に滞在し、「どっぷり浸かって」学んできました。日本の場合、学生は3500ドルと航空運賃を支払います。ただし、寄付金を利用しHBSから2000ドルの補助を受けています。これが他の学校では真似できないプログラムとあって、HBSの第2の柱になりつつあるのです。