不確かさを感じるのは
インポスター症候群とは違う

 インポスター症候群は、どの職場にも一般的に見られる不快感や勘繰り、軽度の不安を伴う病理とされる。特に女性の場合はそうだ。

 白人男性の場合は時間とともに実績を積み、周囲から実力を認められるにしたがって自己不信は消えていく。自分と似たロールモデルを見つけやすく、能力や貢献、リーダーシップのスタイルについて疑問符をつけられることはめったにない。あったとしても皆無に等しい。

 女性の経験は正反対だ。女性のキャリア開発会議には、ほぼ確実に「インポスター症候群の克服」をテーマにしたセッションが用意されている。

 インポスター症候群という名称は、大きな重荷になる。単に新しいチームに参加したり新しいスキルを学んだりすることに自信がなく不安なだけであっても、「詐欺師」というと犯罪者のようなレッテルを貼られるのだ。そこに「症候群」という医学的なニュアンスが加えられる。これではまるで、19世紀の「女性ヒステリー」という診断のようだ。

 仕事をしていれば、誰でも不確かさを覚えることがある。だが、女性がそれを経験すれば、インポスター症候群を患っていると見なされる。強さや野心、レジリエンス(再起力)のある女性であっても、マイクロアグレッション(偶然や無意識からくる差別的な行動)、とりわけステレオタイプと人種差別によって生み出された期待と憶測に毎日直面すれば、落ち込んでしまうことが多い。

 インポスター症候群の概念は、こうしたダイナミクスをとらえず、その影響に対処する責任を女性に押しつける。この問題は本来、構造的な差別とパワーの乱用によって不釣り合いに引き起こされているにもかかわらず、職場は依然として、個人で解決方法を見つけなければならないと間違った方向に向かわせる。

バイアスと排除が
自己不信を悪化させる

 非白人女性の場合、職場で自己不信や帰属意識の欠如を覚えることがさらに顕著になる可能性がある。非白人女性(これ自体が厳密性を欠いた幅の広い分類だ)に生来の欠陥があるわけではなく、人種とジェンダーという2つのアイデンティティが重なっているために不安定な立場を強いられることが多いからだ。

 筆者らのような非白人女性は世界中で、白人男性が支配する職場に居場所はないと暗に言われている。ワーキング・マザー・リサーチ・インスティテュートが実施した調査によれば、調査対象となった非白人女性の半数が、職場で疎外されていると感じたり幻滅したりしていることを理由に2年以内に現在の仕事を辞めるつもりだと回答している。

 これは筆者らの経験と一致する。組織の中で疎外されることによって自己不信が悪化することは、筆者らのそれぞれが会社を辞めて起業の道を選んだ大きな理由の一つだ。

「誰をプロフェッショナルらしいと見なすか。その評価プロセスは、文化的なバイアスに左右される」と、バブソン大学准教授のティナ・オピーは2020年のインタビューで語っている。

 疎外されたコミュニティ出身の従業員が、自分と同じようなバックグラウンドの人々が成し遂げたことのない基準、多くの場合で成し遂げられると期待もされていない基準を達成しようとすると、耐えがたいプレッシャーにさらされる可能性がある。

 それまでは熱心だったヒスパニック系の女性が突然、会議で黙り込むようになる。昇進が確実視されていたインド系の女性が、リーダーとしての存在感がないという漠然とした評価を受ける。いつも発言していたトランスジェンダーの女性が、ジェンダーに関するマネジャーの無神経なコメントをきっかけに発言しなくなる。

 あるいは、黒人女性が自分の発言によって優れた製品開発につながり、組織に大きく貢献したにもかかわらず、チームプレーヤーではないと指摘されたのを機に安心して意見を言えなくなる。非白人女性の場合、構造的なバイアスや日常的な人種差別との長期にわたる戦いによって、誰でも経験するはずの自己不信感が悪化してしまう。

 実際、非白人女性が会社で帰属意識を感じられないのは、もともとそういう場所ではない、つまり帰属することがまったく想定されていない場所だからだ。そうした場所の多くに非白人女性が存在するのは、何十年にもわたる草の根の行動主義と、やむなく策定された法律のおかげだ。

 学術機関や企業はいまも、いわゆる「オールド・ボーイズ・クラブ」と白人至上主義の文化的惰性に埋もれている。システム全体にはびこるバイアスのかかった慣習は、疎外されてきたグループの出身者が個人の能力によって真に成功することを恒常的に妨げている。

 インポスター症候群を克服するには、個人に責任を負わせるのではなく、さまざまなスタイルのリーダーシップを育み、多様な人種・民族・ジェンダーのアイデンティティを持つ人々が、オピーの表現を借りれば、現在の「欧州中心的で、男性的で、異性愛を規範とする」モデルと同レベルのプロフェッショナルだと見なされる環境を創出する必要がある。