DX推進に必要な目的意識

上野 正雄(うえの・まさお)
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター

BCG、AlixPartners等を経て、Accentureに参画。Private Equity Industryを統括。運輸・物流・ホスピタリティ・小売・食品・介護・保育・教育・人材派遣・建設・EC・ソフトウェア等の業界に対する、Due Diligence、Post-Acquisition Management、事業再生の豊富な経験を有する。また、Accenture Strategy & Consulting Groupにおいて、Ventures & Acquisitions Leadとして、戦略的パートナーとのエコシステム構築も推進。

――DXの中核にはデータの活用が挙げられます。しかし、いたずらにデータを集めても効果が出ないばかりか、マイナスの結果を導き出しかねません。各企業がデータ活用において気を付けるべき点は何でしょうか。

上野 データは不可欠ですが、必ずしも種類や量を必要とするわけではありません。むしろ何のために、どのようにデータを有機的に結び付け、意味のある形で解析を進めていくのか。その目的に照らした設計がしっかりできているかどうかが重要です。例えば、サプライチェーンの上流から下流まで、全てのトランザクションデータを保有していることも大切ですが、それらのデータから新しいインサイトを抽出できるような形で、取得・保管・分析できていることが価値につながります。もちろんそのアルゴリズムやデータの持ち方は企業によって変わってきます。

上野 一例を挙げると、アクセンチュアでは、サプライチェーン全体の最適化を可能にする「AI POWERED SCM」というサービスを提供していますが、このエンジンには需要予測のデータや生産量などの情報が集約されるようになっています。こうした情報と分析基盤は幅広い企業に活用できるものだと思います。

喜多 データの活用法はさまざまですが、やはり重要なのは「何をしたいか」という目的です。目的ありきで仮説を立て、データで検証する。この構造はこれまでのビジネスとそれほど変わるものではありません。ただ、昔と比べ圧倒的にデータが取りやすく、加工しやすくもなっていますので、下手をするとデータは多いけれど意思決定につながりにくいという状況も起きているように思います。

 われわれは投資実行の前に、企業をどのように成長させるかの大まかな仮説を立て、事前のデューデリジェンスにおいて一定の検証を行います。投資後は経営陣と共にその仮説を磨き込み、KPIを定義して、実行をフォローしてゆきます。適切なデータをタイムリーに取ることで、経営の精度とスピードが上がってゆくと考えています。

――一般に海外企業では、ビジネスモデルを変革して、デジタルチャネルでの売上比率を何パーセント拡大するなど、先に具体的な目標値が設定されて、howの議論が行われることが多いと聞きます。

上野 これまでと違って、現在は明確な目標なしに、あるいは大きな目標だけを設定して、ウォーターフォール型で巨大なシステム開発に何年も費やすといったことが許される状況ではありません。事業のスピード感を高めるためには、アジャイルにPDCAを回しながら、取り組みと結果を高速で出し続け、ダメだったらどんどん変えていくといった姿勢が不可欠です。まずスモールサイズで挑戦してみて、うまくいったらスケールを大きくしていくといった取り組み方ですから、目指すべきものの解像度を高めて、動的に目標を最適化していかないと、ゴールがぶれてしまいます。

喜多 デジタルはあくまでツールであり、DXは事業戦略の方向性の一つにすぎません。ただし、最近の弊社の投資案件では、「デジタルの力で事業の変革を加速化する」というように、何らかの形でDXが投資テーマとなっていることが多くなっています。外部の視点も入れて思い切った戦略、目標設定を行うことの意義は大きいのではないかと思います。

(後編へ続く)