DXの必要性への理解不足

喜多 慎一郎(きた・しんいちろう)
アドバンテッジパートナーズ 代表取締役 シニアパートナー
ベイン・アンド・カンパニーを経て、2003年にアドバンテッジパートナーズに参加。現在、日本のバイアウトファンドの統括責任者を務める。これまでにカチタス、コミュニティワン、ユナイテッド・プレシジョン・テクノロジーズ、ネットプロテクションズ、やる気スイッチグループ、コスモライフなど20社以上の日本の中堅企業への投資、経営支援を手掛けている。

――そうした大胆な意思決定を行えないのは、DXの必要性を理解していながらも実行に移せないのか、そもそも理解が不足しているのか、どちらでしょうか。

上野 感覚としては後者です。経営者の方から、そもそもDXとはどの範囲で何を考えればいいのかという質問を受けることがあります。既存業務を単純にデジタル化することもDXの一部ですが、そこに事業の変革につながる何かを生み出せなければ、本当のトランスフォーメーションとは呼べません。まずは小規模ながらも実際に新しい成果を出す仕組みを作ってみて、徐々にスケールさせていき、企業のビジネスモデル変革につなげていく。さらに、そこで財務効果も創出できて、初めて真のDXと呼べるのではないでしょうか。そうした認識でDXを考えている経営者の方はまだ少ないように思います。

喜多 ITの活用という意味では、20年以上も前からいろいろなコンセプトやツールが現れてはブームとなり、消えていきました。ただ、デジタルの力で企業を変革していく必要性はこれまでと比較できないほど高まっています。テクノロジーの進展が加速していて、業界によっては近い将来、既存のビジネスそのものが様変わりしてしまうところも出てきます。DXによって、これまでとは違った方法でビジネスが生み出されるケースが多々起こってくると思います。

上野 そうですね。DXだけで売り上げや利益が改善するわけではありません。DXを軸にしながら、さまざまな施策を同時並行で進めた複合的な結果として、初めて大きな果実が得られます。DXの進め方として、変革のビジョンを明確にした上で、経営陣や社内関連部門の理解が得られやすい領域からDXに取り掛かり、クイックウィンで成果を出し、その後、全体に広めていくという方法も有効かもしれません。

喜多 しかし、IT企業を除く日本企業では、まだビジョンが不明確だったり、社内のコンセンサスが取れていなかったりする段階にあるのが現実です。仮にビジョンがあっても、それをどうやって戦略やオペレーションに落とし込み、組織に浸透させていけばいいのか、そもそも推進を担当する人材をどのように確保するのか、そうした段階でつまずいているのが実態のように思います。

――そうした自社のDX推進の妨げとなっている要素を特定するには、どうすればいいのでしょうか。

上野 前述したようにDXサーベイのベストプラクティス企業との差異について、業種別・企業規模別に、23の要素で比較するDX簡易診断をわれわれは推奨しています。診断結果を基に、DX推進上の妨げになっているものが何かをあぶり出します。と同時に、その企業が持っている競争優位の源泉が何なのか、それが持続可能なものなのか、環境が変わっていく中で、通用するものなのかといった部分も見極めつつ、持続可能な競争優位の源泉を生かし得るDXを考えていきます。

喜多 われわれが投資先企業と議論する上でも、このようなサーベイを活用する意味は大きいと考えます。われわれの投資先の業種は多岐にわたっており、DXのあるべき姿や導入のステップも異なります。例えば、製造業にカテゴリーされる企業では、製造現場にIoTを導入して、これまで取れなかったデータを集めたり、検査工程にAIを導入して人の工数を減らして精度を上げたりといった取り組みを始めています。これは生産性に注目したDXですが、業界のベストプラクティス企業との差を見ていくことで、DXにおける施策のヒントや優先順位が見えてくることを期待しています。