DXの概念や必要性が広く知れわたり、多くの企業がデジタル化による事業変革への取り組みを始めている。しかし日本企業の「デジタルトランスフォーメーション(DX)」は、既存のオペレーションやシステムをそのままデジタルに置き換えるという部分的なデジタル化にとどまっているケースが多い。海外企業に大きな後れを取っているこうした状況をどのように捉えるべきか。日本のプライベートエクイティ市場で大きな役割を果たしてきたアドバンテッジパートナーズ代表の喜多慎一郎氏とアクセンチュアのマネジング・ディレクターの上野正雄氏が、アクセンチュアが実施したDXサーベイの結果を基に、日本企業のDXの課題について解像度高く迫る。

海外企業に後れを取る日本企業のDX

――先日、アクセンチュアが実施したDXサーベイの概要について教えてください。

上野 当社では、企業の経営者から課長職などの管理職までを中心にアンケート調査を行っていますが、今回のDXサーベイでは、10業種にわたって大企業、中堅企業、中小企業といった企業規模別に8750人の回答を収集しました(図表1)。それをあらかじめ定義した5つのDXカテゴリーと、各カテゴリーにひもづく23の構成要素に当てはめて分析し、業種別・企業規模別にDXの成熟度を明らかにしています。

 その傾向を見ると、現在、DXを推進する日本企業の多くは、DX戦略や全体構想の検討段階にとどまっている状態です。バックオフィスやセキュリティのデジタル化などは一定程度進んでいますが、それ以外の要素はほとんど進んでいないのが現状です。

――業種別に見たDXの取り組みはどのような状況でしょうか。

上野 今回の調査では、DXの成熟度が高く、利益率が3%以上アップした企業を「ベストプラクティス」として定義していますが、業種別にベストプラクティスを比較していくと、やはりテクノロジー・IT業界は、DXへの親和性やリテラシーが高く、他の業種に比べて圧倒的にデジタル化が進んでいるといえます。社内の各部門にデジタルのケイパビリティを持つ人材を配置できている点でも圧倒的な差です。次いで取り組みが進んでいるのは、広告・マーケティングや製造業となります。一方、ヘルスケアや飲食、小売、人材派遣などの業界は、相対的にはかなり遅れているといえます(図表2)。

喜多 IT業界でDXが進んでいるというのは当然ですが、実感と合っています。投資先のIT企業の経営者やマネジメント層と話をすると、DXの構想部分はほとんど出来上がっていて、オペレーションのデジタル化も進んでいます。今後、新規事業をどう創出していくかという段階に入っている企業が多いように思います。

――DXの指標である23の構成要素から見えてくる傾向として、注目すべき点はどこでしょうか。

上野 いずれの業種でも共通して顕著に見られるのは、顧客体験やオペレーションのデジタル化の遅れです。これらはテクノロジーに係る深い知見が要求されるため、DXで最も難易度が高いものです。

喜多 DXの取り組みがいわば現状の改善にとどまっているという点は肌感覚として理解できます。スタートアップ企業が老舗企業を駆逐するような、海外のドラスティックなDXのイメージとは、だいぶ違います。

上野 海外ではトップの意思決定として、既存のオペレーションやシステムが事業環境にそぐわず、売り上げ・利益創出につながりにくくなっていると考えれば、例えばカスタマージャーニーの再設計から検討を始め、最終的にはオペレーティングモデルを丸ごと組み替えるといった荒業も行います。現状のオペレーティングモデルを温存したまま、つなぎ合わせでデジタル化するのは、効率的ではないという意識があるので切り替えが早いのです。ところが、このような事業環境変化が起こっていたとしても、日本企業は現状のシステムを生かしつつ、そこにデジタルの仕組みを、一部つなぎ合わせて取り入れようとします。そのため、本来目指していた業務効率化につながらないなど、小さな効果しか上がらないこともあるのです。