スペース・フォー・スペースのチャンスを掴む

 スペース・フォー・スペースの活動が生み出すチャンスは極めて大きい。しかし、そのチャンスを活かすことは必ずしも簡単ではない。

 チャンスを逃がさないために、政策決定者はしかるべき規制と制度の枠組みをつくり、民間主導の宇宙ビジネスを花開かせるうえで不可欠な要素、すなわちリスクを厭わない姿勢とイノベーションへの取り組みを促進する必要がある。

 特に重要な政策領域としては、以下の3つを挙げることができる。

(1)民間人が政府の宇宙飛行士よりも大きなリスクを取れるようにする

 まず、宇宙産業をより分権的で市場志向の産業へと転換させるために、政策決定者は、民間の宇宙旅行者や移住者が自発的に、政府の宇宙飛行士よりも大きなリスクを取ることを認めるべきだ。政府が政府職員である宇宙飛行士に許容するリスクは、ある程度以上大きなものにはなりえない。

 もちろん長い目で見れば、宇宙旅行者や宇宙移住者を増やすうえでは、高いレベルの安全性を確保することが重要だ。しかし、初期段階でリスク回避の姿勢が強すぎると、進歩がまったく起きずに終わってしまう。

 この点では、NASAと取引企業との関係が参考になる。2000年代半ば、NASAは取引企業との関係で、原価加算契約(宇宙に投資することの経済的リスクをすべてNASAが引き受ける)から、固定価格契約(NASAと取引企業がリスクを分かち合う)に転換した

 民間企業のほうが政府よりもリスク許容度が高いので、これをきっかけに宇宙産業が一挙に活性化した。そうした民間企業の宇宙ビジネスへの参入増加は、「ニュースペース」(新しい宇宙産業)という言葉で表現されることもある。

 これと同じように、スペース・フォー・スペースの経済活動を軌道に乗せるためには、民間の宇宙飛行士による自発的なリスクテイクへの姿勢を変える必要があるのかもしれない。

(2)考え抜かれた規制と公的支援を導入する

 次に、大半の市場がそうであるように、安定した宇宙ビジネスを育てるためには、考え抜かれた規制と公的支援が不可欠だ。

 NASAと米国の商務省および国務省は、「(地球に近い軌道における)米国の商業活動が花開くように、適切な規制環境を形づくる」ことを改めて確約している。これは、政府が産業界との協働を続ける意思を示したものとして歓迎できる。しかし、行うべきことはまだたくさんある。

 まず、政府は、宇宙における限られた資源の所有権をどのように扱うかを明確にすべきだ。たとえば、火星の水、月の氷、そして周回軌道上の「枠」の利用権(言ってみれば、宇宙空間における駐車スペースのようなものだ)などがそれに該当する。

 2020年にNASAが月の土壌や岩の買い取りを申し出たり、2020年4月に宇宙空間の資源に関する大統領令が発せられたり、2015年に「商業宇宙打上げ競争力法」が制定されたり――こうした近年の動きを見ると、米国政府は、宇宙の経済開発を後押しするための規制の枠組みを確立したいと考えていると言えそうだ。

 2017年、ルクセンブルクは欧州諸国で初めて、宇宙で採掘された資源に対する私的権利を保障する法的枠組みをつくった。同様の動きは、日本アラブ首長国連邦(UAE)でも見られている。また、8カ国が署名したアルテミス合意では、月、火星、小惑星の持続可能な国際的開発のビジョンに合意した(ただし、ロシアと中国は参加していない)。

 こうしたことは初期の重要なステップではある。しかし、主要な宇宙開発国すべての間で希少な宇宙資源を公正に利用・分配するための包括的な国際条約はまだ生まれていない。

 また、各国政府は、まだ成熟途上にあるスペース・フォー・スペース経済のエコシステムにおける資金不足を解消するために、人間を宇宙に送り込むのに有益な基礎科学研究に資金援助を行い、宇宙関連のスタートアップ企業に業務を発注すべきだ。

 加えて、過度な規制が宇宙産業の息の根をとめるリスクがあることには留意すべきだが、スペースデブリ(宇宙ゴミ)を削減するための政策など、ある種のインセンティブ施策は、政府の措置抜きに企業同士で調整して成し遂げることが難しい成果をもたらし、すべての企業にとって宇宙ビジネスのコストを引き下げる効果が期待できる。

(3)地政学的対立を乗り越える

 最後に、スペース・フォー・スペースの経済の発展が地球上の地政学的対立(米国と中国の関係はその典型だ)により足を引っ張られないようにすべきだ。

 国家間の地政学的対立は、どうしても宇宙空間にも(少なくともある程度は)波及する。それに軍事関連の需要は、航空宇宙企業にとってこれまで重要な収益源になってきた。しかし、地政学的対立を抑え込まなければ、国境を越えた商業宇宙開発から関心と資源が奪われるうえに、民間の投資にとっての障害とリスクが生まれてしまう。

 地球上では、民間の経済活動を通じて、対立関係のある国の人同士が結びついてきた。スペース・フォー・スペースのエコノミーが成長すれば、同様の結束を生み出す大きな原動力になる可能性がある。

 各国政府は、そのじゃまをしないようにすべきだ。世界の国々が協働して、宇宙空間での法の支配を確立し、国際的なルールを徹底していく取り組みは、スペース・フォー・スペースの経済を健全に発展させるために不可欠だ。

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 スペース・フォー・スペースのエコノミーを確立するというビジョンは、1960年代に宇宙時代が幕を開けた頃、すでに存在した。これまでそうした未来予想図はほとんど実現してこなかったが、ようやく状況が変わりつつあるようだ。歴史上初めて、民間企業の資本、リスクを伴う行動に乗り出しやすい立場、そして利益追求への意欲が、人間を宇宙に送り込む取り組みに注入され始めた。

 このチャンスを活かすことができれば、のちに2020年を振り返って、スペース・フォー・スペースの経済と社会を築くという画期的な取り組みに乗り出した最初の年だったと評価することになるだろう。


HBR.org原文:The Commercial Space Age Is Here, February 12, 2021.