「知の探索」を促して変革を巻き起こす

入山 東証マザーズに上場した途端に成長が停滞してしまうベンチャー企業が多いことを私は懸念しているのですが、荻島さんは今後の成長ビジョンをどのように描いていますか。

荻島 当社はエンタープライズ(大企業)向けの製品をリブランディングし、「TeamSpirit EX」という名称に変更したうえで、今年3月から本格展開を始めました。

 実は、エンタープライズ向け製品を本格展開するに当たっては、入山先生が著書『世界標準の経営理論』で紹介されている知の探索・知の深化の理論、いわゆる「両利きの経営」が後押しになりました。

早稲田大学大学院・ビジネススクール
教授
入山章栄
AKIE IRIYAMA
慶應義塾大学経済学部卒業。三菱総合研究所を経て、米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.Dを取得。米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール アシスタントプロフェッサー、早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授を経て、現職。著書に『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社、2019年)など。

入山 そうなんですか。簡単に説明すると、「両利きの経営」とは、自社の既存の認知の範囲を超えて、遠くに認知を広げていこうとする「知の探索」と、自社の持つ一定分野の知を継続して深掘りし、磨き込んでいく「知の深化」が高いレベルでバランスよくできる経営のことですが、なぜ、それが後押しになったのですか。

荻島 TeamSpiritは現在、中小企業のお客様に多く利用いただいています。そのため、エンタープライズ向けに新製品を本格展開すると、既存製品とユーザーの奪い合いになるのではないかと、社内でかなり揉めたのです。

 その頃、たまたま米国で大手ERPベンダーの関係者と話す機会がありました。そのERPベンダーも大型新製品を開発するに当たって、既存の主力製品を扱う事業部門からの反対があったそうです。自社製品同士でのカニバリゼーション(市場の奪い合い)を懸念したからです。

 そこで、同社のトップは知の探索を行う新製品開発部隊を既存組織と切り離してシリコンバレーに置き、徹底してイノベーションを追求させたそうです。そうして、新機能開発に専念させる一方で、生まれたイノベーションの成果を既存事業部門に還元し、新製品の顧客サービスを深化させたのです。

 当社の場合も、既存製品で中小企業から大企業のお客様まで幅広いニーズに対応し成長してきたわけですが、より大企業に最適化された製品を出さないと市場を広げることはできません。現状に甘んじれば、他社に市場を奪われるリスクもあるので、「だったらやってしまおう」と決断したのです。

 エンタープライズ向けは、製品そのものの仕様だけでなく、マーケティングや営業・サポート体制も大きく変えなくてはなりません。そこで開発も販売もまったく新しい別のチームを編成し、いままでの成功体験をリセットさせて、「知の探索」に取り組んでもらっています。

入山 私が知る限りでは、ANAグループがLCC(格安航空会社)のピーチ・アビエーションを設立したのも、「他社に市場を取られるくらいなら、みずからやってしまおう」という経営判断だったと聞いています。

 アマゾン・ドットコムのジェフ・ベゾスCEOなどは、「どんどん新規事業を生んで、既存事業を潰せ」と発破をかけているそうです。

 過去の成功体験に安住していると、変化に対応できず、衰退していくものです。成長を続けるには、トップが情熱と信念を持って旗を振り、変革をリードしていくしかありません。

 変革には多大なコストがかかるものですが、ビズリーチ創業者の南壮一郎氏は、「社長の仕事は赤字をつくることだ」と言っています。リスクを取って新規事業への投資を続けられるのは、経営トップだけだからです。

荻島 私は「両利きの経営」に触れて、社員が「やるべき仕事」とは、すなわち「知の探索」だと確信しました。

 「知の探索」を続けるには、会社と社員が大きなビジョンを共有することが重要です。当社は現在、TeamSpiritをあらゆる業務システムの入り口となる「ERPのフロントウェア」と定義付けていますが、近い将来は人材の生産性や創造性を高める「EX(Employee Experience)を実現するERPのフロントウェア」にしたいというビジョンを持っています。この想いを社員と共有しながら、TeamSpiritをイノベーション創造のためのプラットフォームへとさらに進化させていきます。
 
入山 イノベーションを続けるには、経営者がいかにパッションを持ち続けるかが大事です。なぜなら、大きな変革には根気がいるからです。情熱を傾けられるほど好きでなければ、長続きさせることはできません。

荻島 私も「変わる」のが好きだから、ここまで続けてこられたのかもしれません(笑)。これからも情熱を持って変革に挑み続けます。

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