抜本的な生産性向上には事業構造改革が欠かせない

入山 リモートワークの普及とともに、「チームで働く」ということが難しくなっていますが、これも分子の増加を抑制する大きな要因となる可能性があります。

荻島 同感です。リモートワークではそれぞれの役割に応じて分業せざるを得なくなるので、チームで働くことが難しくなるだけでなく、特定の個人に負担が偏ってしまうことがあります。そうした負担を軽くするためにも、入山先生がおっしゃったように、「やらなくてもいい仕事」を減らす必要があると思います。

入山 「やるべき仕事」と「やらなくてもいい仕事」を分けるには、判断基準を決め、それをみんなで共有しておく必要があります。その基準がないと、たとえば、上司と部下で何が「やるべき仕事」なのかという判断にずれが生じてしまいます。

荻島 私はその判断基準として、米国のアイゼンハワー元大統領が考案したとされる「アイゼンハワー・マトリクス」が参考になると思います。行動の優先順位を付けるために、タスクを「重要かつ緊急」「重要だが緊急ではない」「重要ではないが緊急」「重要でも緊急でもない」の4つの象限に分けるものです。

 一般に企業の業務は、そのほとんどが「重要かつ緊急」なものですが、変革やイノベーションを推し進めていくためには、「重要だが緊急ではない」仕事にも時間を割く必要があります。

 将来を見据え、自己変革を行っていくことは、中長期的な付加価値や生産性の向上に結び付きます。そのために、物事を深く考え、準備することは「やるべき仕事」だと思うのです。一方で、「緊急だけど重要ではない」仕事は、業務の標準化・集約化、ツールの活用などによって、どんどん減らしていくべきです。

入山 「やるべき仕事」に専念できるのは、仕事のやりがいや社員のモチベーションを高めることにもなります。最も理想的なのは、「やるべき仕事」は何か、ということに対する会社と社員の認識が一致していることです。

荻島 その点は本当に重要だと思います。認識を一致させるためには、会社としての明確なミッション、ビジョン、コアバリューを定め、それらを社員としっかり共有することが大切です。

 会社と個人の目指す方向が一致していれば、「未来のために、我々はいま何をすべきなのか」という行動の優先順位付けに迷うことがなくなります。

入山 荻島さんが起業して以来、組織としての生産性に大きな変化があったタイミングはありましたか。

荻島 はい。それはビジネスモデルを変革し、事業構造そのものが大きく変わった時です。2011年にTeamSpiritのβ版をリリースしたタイミングで、システムの受託開発から完全撤退し、SaaSをサブスクリプション型で提供するというビジネスモデルに変革したのですが、それによって生産性が飛躍的に向上しました。

入山 既存事業から完全撤退して、新規事業に経営資源を集中するというのは、大きな決断ですね。

荻島 当時は経営資源が潤沢にあるわけではありませんでしたから、既存事業を温存したままでは、SaaS事業を成長させるのに時間がかかりすぎると考えました。リスクを取ってチャレンジしなければ変われないと思い、腹をくくりました。

 この決断によって、社員は既存の仕事をしなくて済むようになり、事業構造変革とともに掲げた「すべての人を、創造する人に。」というミッションや、当社のビジョン、コアバリューに基づいて、サービスの価値向上に専念できるようになったのです。