全体像の重要な部分を省略し、現実を単純化するストーリーもある。もう一つの危険信号は、選択バイアスだ。

 ●平均

 データに基づいた分析や科学的知見は、伝わりやすく、理解しやすくするために、よくストーリー化される。しかし、その多くは平均的な統計上の効果に議論を限定して、現実を単純化しすぎている。その結果、ある戦略が利益を増加させるとか、教育の機会を増やせば収入が増えるとか、意欲が高ければ成功するといった期待を生む。

 こうした因果関係に基づいたストーリーが、自分が持っていた信念と合致するかしもしれない。しかし、それが有効なのは参照したサンプルの平均に限られ、期待される結果にまつわる重要なリスクやニュアンスを隠す可能性がある。

 ●逸話

 個人的な経験や印象的なエピソードから包括的なストリーを導き出すことは魅力的だ。しかし、それらは小さな例にすぎず、代表的なものではないことが多い。実際には、状況や性格の多様性を考えると、ユニークな結果ほど一般化する可能性は低い。

 そのため多くの組織では、複雑な意思決定の際には、経験に基づくストーリーよもデータに基づくアルゴリズムのほうが好まれるようになった。たとえば、マイケル・ルイスの『マネー・ボウル』は、野球の潜在的なパフォーマンスを評価する際、逸話や経験に基づくストーリーの信頼性が低いことを描いている。

 ●生存者バイアス

 サクセスストーリーから学ぶことは楽しく、やる気を起こさせる。成功した人や組織の共通点の分析は、至るところでなされている。しかし、このアプローチは、そうした共通点が、それほど成功していない人や組織にも同じように当てはまる可能性があることを見落としている。

 特に成功確率が低い場合は、成功者がいかにユニークな才能を持ち、努力家であるかをストーリーは強調しがちだ。だが、同じようなスキルと労働倫理を持っていても、さまざま状況や理由から同程度の成功を収められなかった多数の失敗者については、都合よく無視している。

 その結果、生存者バイアスに陥っているストーリーは、成功が実際よりもコントロールや予測が可能であるという誤った考えを生む。

 ●結果

 ストーリーは、根本的なプロセスを無視して、目に見える結果に焦点を当てがちだ。そのため、結果に貢献した可能性のある欺瞞や非倫理的な行動を見抜けなくなる。

 長く語られ、人気を集めるストーリーの中には、成功した結果のみに基づき、後に負の側面が明らかになったものは数え切れないほどある。ネズミ講やオピオイド危機、詐欺的な商習慣、犯罪行為もそれに含まれる。

 結果に基づいたストーリーのもう1つの影響は、イノベーションに対する誤解だ。創造性に関するストーリーは一般的に、成功したアイデアの最終結果と少数の華やかなクリエイターたちを讃えるが、その根底にある、リスクを恐れない多数の起業家による複雑な共同プロセスをほぼ無視している。結果、イノベーションは実際よりも個人主義的で決定論的なものに思えてしまう。

 残念なことに、このような危険信号以外にも、少なくとも2つの複雑な問題がある。1つは、これらの危険信号が組み合わさったストーリーが存在することだ。たとえば、結果論の恩恵を受けて存続している、数少ない逸話の成功した結果だけに焦点を当てているものなどだ。ストーリーに示される危険信号が多いほど、懐疑的な見方が必要だ。

 もう1つは、ストーリーが事実上正しくても、時間関連バイアスや選択問題が生じうることだ。結果論でわかっていることや、目に見える最終的な結果、相関関係や推定される平均の効果が真実ということもあり、ストーリーが情報を提供していても誤解を招くことがある。

 ストーリーテリングの問題の解決策は、ストーリーを語るのをやめたり、ストーリーを完全に無視したりすることではない。それは、ストーリーの重要な利点を奪うことになる。

 賢明な意思決定者は、便利で説得力のあるストーリーを、従うべき真実ではなく、精査すべき理論として利用することができる。このような危険信号を有効活用して、関連するストーリーを試し、磨き、更新するのだ。

 そうすることで、ストーリーテラーがメッセージを構築する際、より慎重になるよう促すことになる。それゆえ、ストーリーに懐疑的になることが、よりよく正当なストーリーにつながり、コレクティブラーニング(集積的学習)と意思決定を向上させるのだ。


HBR.org原文:Don't Let a Good Story Sell You on a Bad Idea, December 17, 2020.