ストーリーの中には、時間の影響を歪めたり無視したりすることで、現実を単純化するものがある。最初に解説する危険信号は、時間関連バイアスだ。

 ●結果論

 結果が出た後につくられたストーリーは概して、起きる可能性はあったがそうならなかったシナリオを軽視している。その結果、成功や失敗を実際よりも予測可能で決定論的に見せる。しかし、後から見ると明白に思える結果でも、決断が下された時点では不確実なことが多い。

 たとえば、コピー機、現代のPC、グーグル、ハリー・ポッターといった画期的なアイデアは、大きな成功を収めた後では当然の結果のように思われたが、当初はそこから利益を得る立場にあったベテラン投資家たちに却下された。

 実際のところ、考案者ですら、そのアイデアの可能性を正確に予測できないケースは多い。ゼロックスは自社の先駆的なコンピュータ技術への投資に失敗し、グーグルは創業間もない頃、その後の企業価値には到底及ばない額で自社を売却しようとしている

 ●相関関係と因果関係の誤解

 ストーリーは、同時期に起きた相関関係のある出来事の間に、実際にはない因果関係を示唆することがある。『スポーツ・イラストレイテッド』の表紙のジンクスのような都市伝説は、そうした誤解に由来する。同誌の表紙を飾った選手やチームの成績が悪いと、たとえその結果が平均への回帰として予測されていたとしても、雑誌側が非難されるのだ。

 同じように、マネジャーは称賛と処罰の効果について誤った信念を抱くことがある。褒めたたえていた成績優秀者のパフォーマンスが悪くなり、処罰を科した成績の低い部下のパフォーマンスが向上した時は、特にそうだ。

 続いて起きた出来事を誤って関連づけると、ワクチンと自閉症との間や、新しい技術と新型コロナウイルスのパンデミックとの間に因果関係があるとするような、陰謀論をあおることにもなる。

 ●近視眼

 原因と結果が時間的に離れている場合に、現存する関係性を見つけ出せないストーリーもある。ワクチン接種や新技術の採用のように、多くの戦略はすぐには効果が表れない。問題をさらに複雑にするのが、状況が暗転した後に好転するものもあることで、ストーリーによって見落とされたり、誤解されたりしやすい。

 近視眼的なストーリーは、実際には前政権に原因がある可能性があるのに、就任直後の出来事について新政権のリーダーが称賛されたり、非難されたりすることにもつながる。こうした近視眼はマネジャーにとって、長期的に効果のある方法ではなく、単に問題を和らげる手っ取り早い対処法を選択させる恐れがある。

 ●期限切れ

 ストーリーは過去に基づいているため、状況が急激に変化すると、すぐに古くなることがある。しかし、ストーリーの上に築かれた慣習は、しばしばその有効期限を超えて存続する。

 ほんの数十年前までは、大学の学位を取得していれば、ほぼ確実に給与の高いキャリアが保証されていた。それはもはや現実ではないにもかかわらず、こうした概念が学生の借金問題が深刻化する原因の一つとなっている。

 プロセスが直線的ではなく、意思決定者が注意を怠ると、ストーリーは特に短命になる。ブロックバスター、マイスペース、ノキアなどは、急速に衰退する直前まで揺るぎないように思われた。