Tadamasa Taniguchi/Getty Images

プレゼンテーションやスピーチに挑むにあたって、聞き手の反応を確かめるために、聴衆の顔を見回しながら話をすることが多い。もちろん、顔の表情は相手の気持ちを推し量る重要な手がかりだ。しかし、集団を相手にする場合には、どれほど高い感情的知性の持ち主であっても、聴衆の反応を歪めてとらえる「注意バイアス」から逃れることは難しい。本稿では、ポジティブであれネガティブであれ、話し手がなぜ、より強い感情を示す聞き手に注目し、聴衆全体の反応を実際よりも過大に評価する傾向を持つのか解説したうえで、その処方箋を探る。


 ある集団に対して、自分のアイデアを発表しているところを想像してみよう。話をしながら、あなたは聴衆を見渡す。顔から顔へと素早く注意を移していく。聴衆は笑顔だろうか。あるいは困惑や退屈、はたまた怒りの表情を浮かべていないだろうか。

 顔の表情は、人の感情を伝える極めて重要な手がかりである。聴衆の気持ちを瞬時に判断することは、新入社員であれ、最高経営幹部であれ、極めて重要なスキルである。

 だが、どれほど高い感情的知性を持っている人でも、こうした一瞬の判断がどのようになされるか、さらに重要なことに、それが正確なものかどうかを知ることは難しい。相手が単独ではなく、集団の中にある社会的手がかりを読み取ろうとすると、ことはさらに複雑になる。

 調査によれば、人は集団を見た時に、ポジティブかネガティブかにかかわらず、感情が強く表れている顔に目が向ける傾向がある。逆に、感情がさほど表れていない顔には、あまり注意を払わない。

 人前で話をする状況では、この「注意バイアス(attention bias)」によって、聴衆の反応に対する印象が歪められることが考えられる。話し手は、相対的に強い感情を示している聞き手に目が行きやすいため、聴衆全体の反応を実際よりも強いものとして受け止める傾向につながる。