深刻な経済格差と地球環境問題

 前号1月号の特集「ESG経営の実践」では、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)の点から、経営や投資の適正化を考えました。中長期的に見て、ジェンダー等の差別や極端な経済格差などの不公正・不平等と、地球環境問題を改善して行こうとするものです。

 DHBRの過去おおよそ1年間を振り返りますと、ESGにおいて、Gは2019年12月号「信頼される経営」、Sは2020年4月号「女性の力」、Eは8月号「気候変動」で特集し、前号2021年1月号はその統合的位置付けです。

 DHBRの基本路線である、付加価値を高めるマネジメント論については、2020年は経営戦略を3月号、マーケティングを5月号、イノベーションを6月号で特集しました。これら最新のマネジメント論の底流には、「テクノロジー革新」があります。その革新は、時代の不確実性化の要因の1つになっています。

 また、グローバル化が進む中で、経済格差と地球環境の問題が深刻になり、不確実性が急激に大きくなっていることが、時代を動かしていると私は考えます。

 この認識から、注目の書籍3冊を紹介いたします。まずは、クラウス・シュワブほか著『グレート・リセット』(日経ナショナル ジオグラフィック社)。シュワブ氏は、ダボス会議で知られる世界経済フォーラムの創設者兼会長です。同書は、コロナ禍による世界の激変とリスクについて詳述します。

 リスクとしては、例えば、実態経済の危機から金融危機への連鎖、新興国の財政不安からの通貨暴落、経済格差が臨界点を超えて起きる貧困層の反抗などを示します。

 また、地球温暖化防止で必要なCO2排出量削減が今後10年で毎年7.6%であるのに対して、2020年の過酷な世界的ロックダウンで実現したのが推定8%減という現実から、目標達成にはエネルギー生産と消費行動の抜本的変更が必要と論じます。

 つまり、あらゆる面でグレート・リセットが必要なのです。ただし、厳しい現実を突きつけつつも、リセットしてリカバリーが可能であることを示しています。

 2冊目はこの分野でのベストセラー、斎藤幸平著『人新世の「資本論」』(集英社)です。地球環境の現状を、より厳しく指摘します。

 再生可能エネルギーや電気自動車の普及等によって、CO2排出を抑えると同時に、新産業創造・雇用創出の経済成長も狙う「グリーン・ニューディール」は、一般に支持の高い施策ですが、斎藤氏は否定的です。地球システムが持つレジリエンス(回復力)の限界を超えた、人類による破壊が進んでいて、グリーン・ニューディールでは間に合わないと著します。

 そこで斎藤氏が提言するのは、カール・マルクスの最新研究をもとに導く、経済成長を抑制する「脱成長コミュニズム」です。その論説は、環境学者などの多くの研究を踏まえていて、読み応えがあります(参照文献が圧巻です)。

 斎藤氏は1987年生まれ。ミレニアル世代です。地球環境問題は、解決が進まなければ、時間が経つほどに被害が大きくなると予想されます。過去や現在のツケが後世に回るのです。ミレニアル世代や、その後のZ世代(代表的なのが環境活動家グレタ・トゥーンベリ氏)は、解決に向けた行動を強く訴えています。まずは、彼らの意見に耳を傾けるべきではないでしょうか。

 一方、前述の『グレート・リセット』では、脱成長案も検討していますが、「その無闇な追求は従来の経済成長と同じ轍を踏む」と警告します。シュワブ氏は、テクノロジーの革新による解決策を期待します。

 問題意識は同じでも解決策が異なる両書ですが、共に評価するのが3冊目、政治経済学者のケイト・ラワース著『ドーナツ経済学が世界を救う』(河出書房新社)です。

 同書では、(1)地球の限界と、(2)人類全員の繁栄が可能になる経済発展を、両立させる案を図式化します。(1)を外円、(2)を内円とした同心の2つの円を描き、世界が実現すべきはその間のドーナツ状の領域である、と主張するのです。(1)を超えた外側の成長では、生命を育む地球システムへの負荷が限界を超える。一方、(2)の内側では、食糧や教育、住居など生活に不可欠なものを欠乏した人が多数存在する状態になることを示すのです。

 同書は、「経済学は本来、社会をより良くするための学問であるはずなのに、その使命を果たせていない」という若い学徒の真摯な訴えから始まります。

 思想や世代を超え、人類が持てる力や知恵を総動員して、格差と環境問題を解決しなければいけないと思わせる3冊です(編集長・大坪亮)