個人の成長を促す「ハイブリッド人事」

村上 高付加価値な産業を育成する上では、「人材」と「教育」がポイントになると私は思います。というのは、実は、日本の人材のスキルレベルは世界的に見て非常に高いのです。OECDが実施している調査でも、読解力や数的思考力は年齢層を問わずトップクラスですし、特に人口的にボリュームのある中高年のスキルが高いことは特筆すべき日本の強みです。時代に合わせたリスキリング(再教育)さえうまくいけば、ものすごく大きなアドバンテージになります。そこで、私が提案したいのが「ハイブリッド人事」の導入です。

松江 日本型人事と欧米型人事の「ハイブリッド」ということでしょうか。

村上 はい。何かと批判されがちな日本式経営ですが、「人に長く投資をする」という文化は誇るべきものです。新卒を30〜40年間かけて育て上げるという時間軸の長さが、日本企業の安定を担保してきたのです。しかし、評価軸が年功序列だけになると、個人は成長をやめてしまう。持続的な成長のためには、やはり競争原理という「苦い薬」が必要です。私はかつてウォール街で金融の仕事をしていましたが、まさに「生き馬の目を抜く」と形容するにふさわしい熾烈な競争の世界で、個人にすさまじい負担がかかります。しかし競争を生き延びれば飛躍的に成長できる。日本にはそこまで厳しい競争はなじまないかもしれませんが、チームを安定させる「長期的投資」に、個人を成長させる「競争原理」をハイブリッドさせるのは有効です。

松江 おっしゃる通りだと思います。それに加えて私が必要だと思うのは、キャリアパスの複線化、雇用契約の多様化という「出口」をセットにするという視点です。

 これまでの日本企業の人事施策は、基本的に一つの企業内での終身雇用を前提にしたものでした。管理職を経て最終的には役員になることをほぼ唯一のゴールとして、つまりマネジメントトラックを中心に設計されてきたのです。せっかく個人が自分でキャリアを築いても、ゴールが1つしかなければ磨いたスキルが無駄になってしまうし、役員になれないとモチベーションも下がってしまう。経験やスキルレベルが高いのに本当にもったいない話です。これからは、マネジメント以外もキャリアパスを作る複線型、そしてさらには、出向や提携、兼業や副業など、社外でオープンに活躍する道を含めて出口を多様化しなくてはなりません。

村上 会社が社員のキャリアのレールを敷くことをやめ、個人が責任を持って自分のキャリアのレールを敷けるシステムに変えていくだけではなく、会社の外に受け皿が必要ということですね。