日本から発信する「新たな資本主義」

村上由美子(Yumiko Murakami)
経済協力開発機構(OECD)東京センター所長
上智大学外国語学部卒業、スタンフォード大学院修士課程(MA)、ハーバード大学院経営修士課程(MBA)修了。その後約20年にわたり主に米国・ニューヨークで投資銀行業務に就く。ゴールドマン・サックスおよびクレディ・スイスのマネージング・ディレクターを経て、2013年にOECD東京センター所長に就任。ビジネススクール入学前は国連開発計画や国連平和維持軍での職務経験も持つ。ハーバード・ビジネススクールの日本アドバイザリーボードメンバーを務めるほか、外務省、内閣府、経済産業省はじめ、政府の委員会で委員を歴任している。著書に『武器としての人口減社会』(光文社新書、2016年)がある。

松江 昨年は新型コロナウイルスの感染拡大によって世界が大きく変化しました。村上さんは、ポストコロナを見据えた時代の環境変化をどう捉えていらっしゃいますか。

村上 『両極化時代のデジタル経営――ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』でまとめられていた通り、「両極化」が顕著になっていると思います。私も2016年に出版した『武器としての人口減社会』で、そうした社会の動きに触れましたが、その流れはコロナ禍で一気に加速しました。世界中で経済格差が広がり、それが教育格差を広げている。こうした格差問題を解決するツールになるはずのデジタル・テクノロジーの恩恵も、享受できる層とできない層に分断されています。

松江 もともと極として存在していたものが、より鮮明に、現象として「両極」として浮かび上がってきましたよね。

村上 はい。しかし、ここに日本のチャンスがあると私は考えています。というのも、このコロナショックで、ピラミッドの頂点に立つ数パーセントのエリートだけで世界を引っ張っていくことの限界が明らかになりました。そして、勝者総取りのエリート主義から、全体を底上げして価値を広く分かち合う世界を目指すという方向性が世界で共有されました。そこで必要な「底上げ」は、まさに日本の得意分野なのです。

松江 確かに、日本はベースとなる教育レベルが高いこともあり、格差は拡大したといっても一定のレンジ内に収まっています。文化的にも全体を底上げしようというマインドが強いように思えます。それを日本の「強み」に転換する発想、とても共感します。

 さらに私は、経済システムの転換にもそのマインドが生かせるのではと考えています。2020年1月のダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)で「マルチステークホルダー」がテーマになっていたのは象徴的で、経済性を至上とする米国式の資本主義は明らかに転換点を迎えています。この歴史的な変革の時代に、日本式の価値観をいかに能動的に世界に広げていくかは大きなテーマです。

村上 はい。今こそ日本から「新しい資本主義」を世界に発信すべきです。

松江 日本らしい社会の在り方においては「サステナビリティ」がキーワードだと思います。断絶を生みやすい両極化する時代に、強みである人材を生かして、持続的な成長軌道をいかにつくるか、いわば「断絶なき成長」を目指すことが日本の姿として大事だと考えています。