1948年創業の森精機製作所(現DMG森精機)は、現社長の森雅彦氏が後を継ぐと事業を急速に拡大する。2015年にドイツのギルデマイスターグループ(DMG)を完全子会社化し、世界最大の工作機械メーカーへと成長した。
INSEADのリンダ・ブリム教授は、自分が生まれた国や地域にとらわれずに活躍する人材を「グローバル・コスモポリタン」と呼ぶ。本稿では、米国、英国、フランス、スイスなどさまざまな国で学び、働いた経験を持つ京都大学の河合江理子教授が、日本を代表するグローバル企業DMG森精機を率いる森社長との対談を通じて、グローバル・コスモポリタンの要件をひも解く。

自分の中にダイバーシティを持っているか

河合江理子(以下、河合):森精機は、ドイツにある欧州最大手の工作機械メーカー、ギルデマイスターグループ(DMG)に対して、2009年から資本提携を含む統合を開始し、2015年に完全子会社化したことで、世界最大の工作機機メーカーになりました。

 日本企業は国境を超えるクロスボーダーM&Aが不得手とされています。この困難なプロジェクトに挑戦された理由は何でしょうか。また、それを成功させるためには、経営者として卓越したリーダーシップ能力や適応力が不可欠ですが、そうした力はどのような環境で養われたと思いますか。

森雅彦(以下、森):私が海外でのビジネスを意識し始めたきっかけを振り返ると、子どもの頃の経験が大きかったと考えています。母方の祖父は満洲鉱業開発で技術者をしていて、戦後に家族で引き揚げてきました。私自身は奈良で生まれ育ち、留学や駐在の経験もない純国産ですが、自分のルーツが海外にあったことで、外の世界に思いを馳せる機会が多かったと思います。

 私のリーダーとしてのロールモデルは、父親です。叔父たちとしょっちゅうケンカをしながら、それでも楽しそうに働く姿を通して、経営者という仕事を身近に感じられるようになりました。また、子どもの頃から「経営者になって、会社を大きくしろ」と言われていましたが、父がゼロから会社を成長させていく姿や、父親自身がリーダーとして成長していく様子を見て、そこから多くを学びました。

河合:コミュニケーション能力=英語力とは限りませんが、海外経験を持たない中、英語力をどのように身につけられたのですか。

:英語は将来必ず必要になると思っていたので、大学時代は学校の勉強よりも熱心にやりました。当時はベルリッツがまだ日本に数校しかなかった時代でしたが、大学時代の4年間は通い詰めて、夏休みには1カ月間、朝8時から夜8時まで1日中英語漬けでした。

 そのおかげで、伊藤忠に入社した時点での英語の成績が、帰国子女の2人に続く程度にはなっていました。会社で「英語が話せる」と認識されると、海外関係の仕事をどんどん任せてくれるようになるのですね。外国からお客さんが来た時、随行しながら技術の同時通訳をしたこともありました。

 英語を知識として詰め込むだけでなく、商売という実戦の場に身を置くことは、コミュニケーション力を育てるうえで非常に大切だと思います。その意味では、仕事をしながら学ぶ機会を与えてくれた会社には、大変感謝しています。

 私が森精機の社長になってからしばらくは、年に2回、ロンドン、エディンバラ、ニューヨーク、ボストンを訪れ、海外でのIR説明会はすべて自分でやっていました。自社の決算書を英語で説明するだけでも骨が折れますが、多い時には1日に7件、投資家が1時間ごとにやってきて厳しい質問を投げてくるので、その時間は本当に心が重かったです。ただ、その経験でものすごく鍛えられたとも思います。

河合:グローバル企業を経営していくうえで、経営者がグローバルな知見を持っていることはもちろん重要ですが、世界の基準で働ける人材を獲得することも大切です。グローバルタレントを採用する際、何に気をつけていますか。

:採用に関してわかりやすいところでは、まず基本的な学力を持っているかを問います。語学力にはじまり、リベラルアーツのような教養を持っている人なのか。それから、体力も見ています。これはいわゆる体育会系の体力ではなく、納得するまで何時間でも議論できる体力、相手を説得できる体力です。

 特に海外で活躍できる人に共通して言えるのは、場所に囚われず自由に働く意思を持っていること、そして自分自身の中にダイバーシティ(多様性)を持っていることだと思います。自分たちとの違いを拒否するのではなく受け入れて、そのうえで相手を説得する力があることはとても重要です。

 日本とドイツのどちらが素晴らしいかというような話をする人は、一見するとグローバルな視点を持っているように見えて、むしろ逆だと思います。たとえ語学力が優れていても、このような大雑把で固定的な考え方をする人はダイバーシティが欠けています。まずは違いを受け入れて、そのうえで互いのよいところを活かそうという発想がなければ、特に多国籍の商売には向いていません。