利害関係者の声に耳を傾けるアプローチは、現状維持の力を打破できる場合もある。ラリー・クレーマーは1982年、同志と一緒に非営利組織「ゲイ・メンズ・ヘルス・クライシス(GMHC)」を設立した。当時、同性愛者男性の命を奪いはじめていた新しい病気、エイズについて、同性愛者コミュニティへの啓蒙活動を行うことが目的だった。

 しかし、この団体はたちまち官僚主義的で階層主義的な組織に変容し、エイズ患者/HIV感染者に安らぎとケアを提供してはいたものの、組織の存続を最優先にして行動するようになった。

 せっかちなことで知られるクレーマーは不満を抑えられなくなり、GMHCと袂を分かち「ACT UP」という新しい団体を設立した。この新団体は、ひたすら未来のことだけを考えるものとした。エイズの治療法開発を目標に掲げたのである。

 それに加えて、ACT UPでは、民主的な運営を旨とした(クレーマーの表現を借りれば、「極端なまでに」民主的だとのことだ)。さまざまなタイプの人たちがこの団体に結集し、メンバーの情熱と専門領域の多様性があったおかげで、戦略が自然発生的に形づくられていった。

 ACT UPは混乱続きで、しばしば内部対立を抱えていた。その意味で、この団体にそもそもリーダーと呼べる存在がいたのかと疑問を持つ向きもあるだろう。それでもクレーマーは、誰も自己満足に陥らないようにすることを自分の役割と位置づけた。

 そのために、何を成功と見なし、何を失敗と見なすのかというストーリーをつくり上げた。やがてエイズの治療法が登場し始めた時、クレーマーはそれを自分の手柄にしようとしなかった。

 ピーター・ドラッカーは、「病んだ社会に健全なビジネスは存在できない」と喝破したことがある。この言葉にある通り、ビジネスが健全性を保つためには、社会が――少なくとも、そのビジネスが奉仕するコミュニティが――健全性を持つことが前提になる。

 今日、経済危機、格差の拡大による危機、気候変動の危機とともに、新型コロナウイルス危機が続く中で、本稿で述べてきたように、リーダーが活動家としての役割を担うことの重要性は増すばかりだ。

 リーダーの仕事の性格は人によってまちまちかもしれないが、目指すべき目的は一つだ。その目的とは、自社の奉仕するコミュニティでの大きな声と小さな声の両方に耳を傾け、単に自社を存続させるにとどまらない大志を抱き、時代から取り残されるのを避けることである。


HBR.org原文:How the Best Leaders Answer “What Are We Here for?”, October 27, 2020.


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