「時間がない!」

 セルフケアや休息を取ることについて筆者が話を持ち出すと、クライアントはたいてい次のような反応をする。「冗談でしょう? チームと家族の面倒を見て、ホームスクールの準備もしていて、友人や同僚や家族の精神的サポートもあるし、もう自分のキャパシティを超えています。そんな時間はありません!」

 このように絶え間ないストレスを抱えているのは、悲しいことに、常に多忙な今日のリーダーの間ではいたって普通のことだ。

 残念ながら、神経科学によると、ストレスを感じている時には、脳が進化の過程で得た闘争・逃走反応をつかさどる扁桃体が作用して、論理的推論、問題解決、意思決定、自制心をつかさどる前頭前皮質の支配力を弱める。つまり、ストレスを感じて打ちのめされている時こそ、大局的に考え、革新し、ストレスの原因である問題を解決するために、スピードを落とすことが最も有効なのだ。

 このこともまた、研究によって完全に裏付けられている。休息を取ることは意思決定疲れを防ぎモチベーションを回復してさらに強化し生産性と創造性を高めて記憶力を強化して学習を改善するのに役立つことがわかっている。短時間の「マイクロブレイク」でも、集中力と生産性を向上させることは可能だ。

 ストレスが引き起こす「時間がない」という反論に対しては、次の問いかけが役に立つ。

・あなたの人生で、重要な優先事項は何か。健康やウェルビーイングがなくても、それを達成することはできるか。
・ストレスのある場所ではなく、ストレスをコントロールできる場所から対応することで、どのくらい時間を節約できるか。
・今日はやらないと決めたら少なくとも5分節約できることを、1つ挙げるなら何か(ヒント:あなたはおそらく、必要以上にソーシャルメディアに時間を費やしている)。その時間をどのように使えば、あなた自身のウェルビーイングとパフォーマンスを向上させることができるか。

「リーダーは強くなければならない。
私が優れたリーダーであるならば、
セルフケアは必要ないはずだ」

 クライアントの中には、リーダーである以上はけっして弱さを見せてはいけないと考えて、コーチングに臨む人もいる。あるクライアントは最近、自分自身も、そして「自尊心のある」リーダーならば誰でも、すべての答えを持っていなくてはならないと筆者に説明した。「そうでなければ、誰が私についてくるのでしょうか」

 セルフケアを実践することが弱さの表れであるという考えは、弱さを見せると悪いリーダーになるという考えと相まって、実践する方法を探そうとすることにさえ大きな抵抗感を生む。

 このクライアントの制限的な考えに対処するためには、リーダーであることの意味に関する、彼女の先入観を探る必要があった。コーチングによって、脆弱性が持つ力、そして他者に依拠することで生じる機会について、掘り下げていった。人に任せること、人に助けを求めることの重要性を認識し始めると、セルフケアが、実際には有能なリーダーになるためのカギであると彼女は理解できるようになった。

 もしあなたが、「優れた」リーダーシップについての考え方を変えるのに苦労しているなら、以下の質問を自分に投げかけてみよう。

・自分が知る最強のリーダーがストレスを抱えていた場合、何をするようにアドバイスするか。
・自分のために時間を割くことで、これまで自分自身やチームにどのような利益をもたらしたか。
・助けを「必要」としていなくても、ただ充電したいと思った場合、何をするか。