(1)聞き手に合わせたストーリーを語る

 当たり前の話だと感じるかもしれないが、聞き手の関心事や不安の種、意欲の源について知りたければ、砕けた会話を繰り返すのがたいてい最も効果的だ。

 そうした会話により得られた情報に基づいて、聞き手の関心や不安に関係した言葉をあなたのストーリーに織り込むとよい。ありきたりな常套句を使うことは避けるべきだ。

 OKRの導入について社内で告知した際、筆者の顧客が犯した最初の失敗は、この点にあった。1つの同じメッセージが1万人の社員すべてに有効だと思い込んでいたのだ。

 しかし、そのメッセージを伝えるべき対象の中には、マネジャーもいれば一般社員もいるし、ベテラン社員もいれば新入社員もいる。すでにOKRの手法について知識を持っている人もいれば、OKRなんて聞いたこともないという人もいる。

 しかも、社員たちはこの動きに不安を感じていた。OKRの導入により評価と昇進に及ぶ影響は、社員のタイプによって違いがあった。そこで、それぞれのグループが抱く疑問と懸念に合わせて何通りもの告知を用意したほうが、好ましい成果が得られただろう。

(2)ストーリーに文脈を与える

 この会社のOKR導入をめぐるもう一つの大きな失敗は、社内での告知において、どうしていまその変革を推し進めるのかという文脈を示さなかったことだ。実際、多くの社員は、また新しい活動がトップダウンで降りてきた、というくらいにしか感じなかった。

 OKRの導入がその会社の大きなビジョンと状況と未来の戦略の中でどのような位置を占めているのかを説明するストーリーを語れていれば、どうしてその変革を行うことになったのか、どうしてそれが重要な意味を持つのかがもっと理解されやすかっただろう。

 たとえば、以下のようなストーリーを語ればよかったかもしれない。

「我が社のルーツは、産業向け製品の製造業です。これまで用いてきた目標設定の枠組みは、その領域でうまくいくように設計されたものでした。しかし、いまソフトウェアを駆使したデジタル企業へと転換を遂げつつあり、これまでの枠組みは合理的とは言えなくなってきました。
 我が社はこの5年間、デジタル分野の能力を高めるためにさまざまなプロジェクトに投資してきました。そうした新しい働き方をするようになれば、目標設定のあり方も変わらざるをえないのです」

(3)ストーリーに人間味を持たせる

 私的なエピソードをストーリーに盛り込めば、その場の空気を軽くできるし、あなたの言いたいことをわかりやすく伝えることができる。それにより、聞き手の懐疑心を和らげて、アイデアを受け入れてもらいやすくできる。

 たとえば、筆者がリーダーシップについて顧客と話すとき、サーカスと一緒に6カ月間旅した経験を披露することが多い。その時に議題になっているビジネスの話とはまったく無関係に思えるかもしれないが、「人間大砲」の曲芸を担当していた団員とよく遊んでいた時の話はいつも笑いを取れる。

 そしてそれ以上に、筆者が風変わりな新しい環境に対処し、人間関係を育み、新しい文化を学び、何度も失敗を重ねた末に、最後には新しい世界にうまく溶け込めた経験は、顧客にとっても示唆に富んだものである場合が多い。

 OKRの導入について社内に説明しようとしていた企業幹部は、私的なストーリーで話を切り出せばよかったのかもしれない。

「ご存じの方もいるかもしれませんが、私の趣味はスカイダイビングです。飛行機から空中に飛び出す時は頭の中が真っ白になると、スカイダイビングの愛好家たちはよく言います。
 でも、この前の週末、地上1万2000フィートの上空で空中に飛び出そうとした時、突然気づいたことがありました。私には明確な『目標』があるのだと、思いいたったのです。その目標とは、ワーク・ライフ・バランスを維持して、ワークとライフの両方が重要であることを忘れないようにすることです。
 では、私が追求する『主要な成果』とは何だったのか。少なくともその一つは、大きなけがを負うことなく、すべての着陸を成功させることです。見ての通り、これまでのところ、その点はうまくいっています! このように目標を明確化させることこそ、新しいOKRの枠組みを通じて我が社で実現させたいことです」