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2020年11月27日、ザッポス前CEOのトニー・シェイが46歳という若さでこの世を去った。革新的なビジネスモデルや独自の組織論を生み出した偉大な起業家であり、その人柄で多くの人々を虜にしたシェイの死を受けて、世界中から哀悼や追慕の念が表明されている。本稿では、同氏と10年以上の親交を重ねた筆者が、トニー・シェイが遺してくれた教訓を語る。


 インターネットビジネスの伝説的な起業家にして経営思想家、トニー・シェイ。その衝撃的な死を受けて、哀悼や追慕の念が続々と表明されている。なかでもとりわけ本質を捉えているのは、トニーと同じく多大な尊敬を集める革新者ジェイソン・フリードによる追悼の言葉である。

 ベースキャンプの共同創業者兼CEOであるフリードのツイートは、私にとってはあまりに複雑で説明しきれない、トニーの稀有な本質を見事に突いていた。「出会った瞬間から、トニーは驚異の的だった。『CEOの肩書を持つアーティスト』とでも評すべき彼は、理想的な人生を歩む、まぶしいばかりの存在だった」

 第一線を退いて久しい人物であろうと、トニーのように46歳での早逝であろうと、著名なビジネスリーダーが他界すると、故人の影響力について論評が相次ぐのは当然だろう。

 トニーに関しては、巨大オンライン靴店ザッポスのCEOを長年務めた人物として見るだけでは、一面的に過ぎる。事業計画や株価目標よりむしろ壮大なアイデアと崇高な情熱を糧に活躍した、「アーティスト」としての横顔にも、注目する必要があるのだ。そうすれば、競争を勝ち抜いて手にした凄まじいばかりの成功、奇抜な組織実験、時として訪れた挫折や失意にも納得がいく。

 多くのアーティストと同じく、トニーが人々を容易に感嘆させるのは、このうえなく明晰である半面、陰影にも富むからであり、それゆえに彼は数々の遺産と、このうえなく貴重な教訓を遺したのである。