バイデンは米国のハートランド(ラストベルトと農村地帯を含む中央部)で支持を獲得するために何をしたか。ポイントは3つある。まず、頻繁に足を運んだ。クリントンは4年前にそれをやらなかった。2つ目に、バイデンは雇用について話した。「私たちなら、米国の中間層の中心地で産業基盤を再活性化できる」と訴えたのだ。

 そして最も重要なことに、バイデンは白人労働者階級に敬意を持って接した。クリントンがトランプ支持者を「嘆かわしい人たち」とこき下ろし、バラク・オバマ前大統領が中西部の労働者階級を、銃と宗教にしがみつく不機嫌な人々と見下したのとは対照的だ。

 バイデンは労働者階級の人々に敬意を払い、トランプは偽物だと説いた。「私はドナルド・トランプのような人間をずっと相手にしてきた。おまえは金持ちではないから、おまえの両親は大学に行っていないから、といった理由で私たちを見下す連中だ。自分のほうが上だと思っている連中だ。持っているのは相続したものばかりで、それを浪費している連中だ」

 多くの選挙報道がある中で、ハートランドの農村地帯のことは、驚くほど話題になっていない。選挙地図で、共和党が強いことを示す真っ赤に染まった地帯である。時代の波に取り残され、人口も少ないこの地域は、大統領選では重要ではないと見なされてきた。だから人々は、伝統的に共和党を支持した。

 ウィスコンシン大学マディソン校で政治学を担当するキャサリン J. クレーマー教授は、著書The Politics of Resentment(憤りの政治)で、2010年の州知事選挙でウィスコンシン州が右に急旋回して、共和党のスコット・ウォーカーを知事に選んだ背景を説明している。

 それによると、ウィスコンシンの白人労働者階級の憤りは、人工妊娠中絶や同性婚といった文化戦争ではなく、世の中に取り残され、見下されているという意識に根差していた。米国の農村地帯には、近くに病院食料雑貨店もないため、必要最低限の医療も生鮮食品も手に入らないという人が大勢いる。

 クレーマーは「農村地帯の考え方」を次のように説明する。「政府は、私が懸命に稼いだ金の使い方を誤っているに違いない。税負担は増える一方なのに、私のような人間にはちっとも恩恵が還元されないのだから。それなら、(民主党の掲げる)大きな政府を支持するわけがない」

 このため明らかに医療を必要としている人々でさえ、オバマケア(医療保険制度改革法)に反対した。オバマケアは貧困層の保険加入を促すことに重点を置いていたため、そこに該当しない元中間層の世帯にとっては、保険料が高すぎたのだ。ここでも彼らは、自分たちが取り残されていると感じていた。