今こそ「社是」に立ち返る

── 今後は日本においてもCEが本格化するとみていいでしょうか。

牧岡 CEを経営アジェンダとして捉える経営者は確実に増えていますが、既存の経済原理の中で収益を獲得してきた大企業がCEを事業化するのは、実は簡単ではありません。既存の仕組みを温存して、ただ社内に号令を掛けるだけでは何も進まないからです。本気でやるには、経営者が本当に腹をくくらないといけないと思います。

── 大きな投資と、思い切った社内改革を覚悟しなければならないということですか。

牧岡 投資と社内改革だけでは済まない点が難しいのです。先ほど紹介した紙おむつの事例でも、ユニ・チャームは再生テクノロジーの開発に2015年から投資しています。これまでの事業スキームなら、完成した技術を既存のバリューチェーンに埋め込めば新事業を立ち上げられますが、CEの核心は「資源の循環」にこそありますから、バリューチェーンを一から見直し、資源を環流させるための新たな動線を描き、その輪を閉じなくてはなりません。文字通りのエコシステム、新たな生態系の構築が必要なのです。

 従来型の「供給」をゴールにした直線的かつ一方通行のバリューチェーンを、回収や再生産を組み込んだサーキュラーモデルに変えていく──。そのためには、政府、地方自治体、NPOや地域住民といった、従来のビジネスのロジックが通じにくいステークホルダーと緊密につながらなくてはいけませんし、収益化するには、消費者の価値観の成熟も待たねばなりません。時間と手間のかかるこうした取り組みに経営資源を投入し続けるには、経営者に相当な信念と胆力がなくては無理でしょう。それが経営者の仕事といってしまえばそれまでですが、未知の領域に踏み出すには常にこれまでの経験では可視化できない大きなリスクを伴います。

── どうすればこのハードルは乗り越えられるでしょうか。

牧岡 やはり重要なのは、お題目としてCEを唱えるだけでなく、経営者自身がその意義を実感し、腹落ちすることではないでしょうか。これが第一歩です。そのためには、まずは小さくてもいいから始めることです。冒頭の例に出したローソンでも、特殊な冷凍技術を有するベンチャーによって製造された、これまで廃棄されていた規格外のフルーツを活用したフローズンフルーツを、一部店舗で販売していました。こうした小さな一歩でも、CE的な視点を獲得するきっかけは確実に生まれます。買収までしなくても、まずサーキュラーネイティブなベンチャーと組んでみる。そして、彼らに近い価値観を持つ社内の若手社員にプランを書かせてみる。このようなスモールサクセスを積み重ねて、社内にCEが内発する種を意識的に埋め込んでいくことが重要だと思います。

 地域を限定してエコシステムづくりのトライアルを行うのも一案です。例えば、アクセンチュアでは、福島県会津若松市のスマートシティープロジェクトに10年前から参画しています。現在では、ICT企業の集積もかなり進んでおり、充実したデジタルインフラを活用した実証実験も活発に行われていますから、まさにサーキュラービジネスを生み出す場にふさわしいといえます(会津若松市の取り組みの詳細についてはこちらの記事にて)。

 スマートシティに限らずとも、環境意識の高い若い首長が活躍する地方自治体は増えていますから、やる気のある自治体と組んで地域課題の解決に取り組むのも有効でしょう。とにかく一歩を踏み出してサイクルを回し、小さくてもリターンがある仕組みを導入することが、「できるだろうか?」から「なんとしてもやるべきだ」への転換を促し、CEの推進力になると思います。

── CSR部の役割も問われますね。

牧岡 新たな部門を立ち上げる必要はありませんが、既存のCSR部のミッションの再定義は必須です。そして彼らの役割を、CSR報告書を作成して公開することから、世界の潮流にアンテナを立て、自社のビジネスの中にCEを位置付けるための新たなつながりを外部から呼び込むことに変えていかなくてはいけません。

── 「第一歩」を成功させたとして、その後の推進拡大や加速に向けては何が必要でしょうか。

牧岡 重要な3点を指摘したいと思います。

 まず、経営者が本来持つべき「胆力」を発揮するためには、実は「社是」や「創業の精神」といった原点への立ち返りが欠かせないのではないか、と私は考えています。というのも、日本企業は、そのルーツに社会貢献への意思が強く組み込まれていることが多く、本質的にCEとの親和性が高いのです。今こそ原点に返り、自社はそもそも何のために存在しているのか、ポストコロナの世界でそれを実現するために何をすべきかを真摯に問い、進むべき方向を明らかにする、いわば社是のアップデート、バージョンアップをするべきタイミングです。

 次にCE型のビジネスへの転換を、デジタルトランスフォーメーション(DX)のコアに位置付けることです。DXに取り組んでいない企業はもはや存在しないでしょうが、DXではなく「DX的」なことに取り組んでいる事例も散見します。ここで言う「DX的」なこととは、デジタルテクノロジーを局所的にお試しベースで取り入れるというような事例も含まれますが、それよりも問題なのは、デジタルテクノロジーを開発、実装、活用した経験のない自称DXのエキスパートたちが「群盲、象を評す」状態になっていることにあります。こうした環境に踊らされないための要諦は、DXの目的をシャープに定義することに尽きますが、今回説明したような事業環境や社会的な価値観の変化に鑑みれば、CEへの転換こそが、DXの目的としてほぼ唯一の選択肢といえるのではないでしょうか? 今更ではありますが、デジタルは目的ではなく手段(エネイブラー)ですから、デジタルトランスフォーメーションでなく、サーキュラートランスフォーメーション。これが正しい変革の要諦だと思います。

 最後に、先ほど述べた社是のバージョンアップとも関わりますが、経営者の未来に対する想像力が真に問われる状況であることを指摘したいと思います。「今日成功を収めている企業も、かつては“未来がどうあるべきかという構想”に基づいて行動した小さな一企業であった」「“経済や市場、知識がどの様に変化すれば“当社が望む方法で、しかも最大の経済効果を上げ得る方法で事業が可能になるのか、という問いが成功の根底にある」、再び、ドラッカーのインサイトの引用ですが、これらの指摘の意味合いを今こそ考えるべきではないでしょうか。

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