「責任」が新たな経済原則に

── 経済を巡るルールも転換点を迎えています。

牧岡 ピーター・ドラッカーは1993年に出版された著書『ポスト資本主義社会』において、「ポスト資本主義社会を規定し、組織する原則は『責任』である」と喝破しました。それから四半世紀以上がたった今、まさにこのインサイトが現実になりつつあります。2018年8月、米国の主要企業が名を連ねる経済団体「ビジネス・ラウンドテーブル」は、企業経営の新たな行動原則として「株主第一主義」を見直し、従業員や地域社会といったあらゆるステークホルダーの利益に配慮すべきとする方針を打ち出しました。株主優先こそが正義だとあれほど主張してきた米国企業が、そこから決別しようというのですから、大きな転換です。

 もちろん、これは利益を度外視した麗しい理想主義ではありません。もはやESGやSDGsを意識しなければ、財務パフォーマンスも株価も上がらないのは厳然たる事実です。強固なサステナビリティー基準を持つ企業の資本コストは低下し、株主総利回りとESGスコアには正の相関がある。これらは、さまざまな研究で明らかになっているのです。

── 持続可能な経済へ転換するために、ルールメークの動きも活発です。

牧岡 はい。欧州委員会は2019年12月に、2050年までに温室効果ガスの排出ゼロという目標を掲げた「欧州版グリーンディール」を、2020年3月にはそのための具体的なアクションプランとして「Circular Economy Action Plan(循環型経済行動計画)」を発表しました。今後はこの計画に基づいて、使い捨ての制限、リサイクルの義務付け、PaaS促進などの法制化の動きが活発化するでしょう。日本においても、この10月に成長戦略の柱として「経済と環境の好循環」が掲げられ、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするとの目標が打ち出されましたし、中国も環境政策については極めて積極的に取り組んでいる状況にあります。日本企業にとって、もはや従来の資本主義の中のルールで活動することが許される市場はグローバルで見ても存在しない、という認識を持つことが必要です。

── コロナ禍を機に、消費者や生活者の意識や価値観が変わったことも、この流れを加速しているのではないでしょうか。

牧岡 新型コロナウイルスの蔓延で、個人レベルで「責任」がクローズアップされるようになったことも大きいですね。新型ウイルスの感染拡大は、人々を「自分が感染源になるかもしれない」「他者の生死を左右するかもしれない」という事態に直面させ、社会に対する個人の責任を一人一人が意識せざるを得なくなりました。「自分のことだけでなく、社会全体のことを考えたい」という意識は、コロナ以後に明らかに高まっています。こうした意識の変化は消費者や働き手としての学生が企業を見る目にも反映されており、「社会課題にきちんと向き合っているか」「CEに取り組んでいるか」が、より厳しくジャッジされるようになっています。

── 社会貢献という責任を果たすことが、収益向上の鍵になるということですね。

牧岡 鍵と言うよりも、最低必要条件と言った方がいいかもしれません。アクセンチュアでは、社会貢献を自社のミッションの一つに掲げているビジネスを「Responsible Business」と呼び、2020年以降の企業経営の最重要テーマに位置付けています(図表3)。ポストコロナの世界で長期的な競争力とビジネスレジリエンスを獲得するためには、社会課題の解決とビジネスの融合が欠かせないのです(Responsible Businessの詳細については、こちらの記事にて)。