ケイパビリティを再考する

 最後に、AIを人員削減のツールとして使うのではなく、各自の仕事を変えるツールとしてAIを使いこなせるよう、従業員を教育する必要がある。

 結局のところ、より大きな価値があるのはどちらか、ということだ。いまの仕事をこなす能力のある人たちか、あるいはシステムを設計してAIモデルのトレーニングを行い、自分のチームの仕事をこなすボットをつくれるチームメンバーなのか。

 これは聞き覚えのある話だろう。工場の自動化であれ、コンピュータ革命の草創期であれ、ツールの一歩先を行くためには、その初期段階から人がテクノロジーとともに進化する必要がある。

 UBSのダーガンが指摘するように、「銀行業はテクノロジーだが、テクノロジーは人である」。2019年、UBSはデジタルラーニングのカリキュラムを全社に導入し、AIやブロックチェーン、クラウドテクノロジーに関する研修コンテンツを提供した。2020年前半には5万ものコースを準備し、4万5000時間以上のトレーニングを行うことができた。銀行の全従業員がコンピュータコードを書けるような未来が訪れるとはダーガンも思っていないだろうが、デジタルリテラシーはいまや不可欠なスキルである。

 未来の変化に左右されない職種や職能など存在しない。テクノロジー関連の仕事でも同様である。過去2年間にUBSは業務部門の350人に自動化ボットの設計と管理のトレーニングを施した。これは、かつて存在しなかった仕事の側面である。

 新たなスキルをトレーニングすること以外にも、仕事をとらえ直すうえでチームの協働の仕方について考えることも重要だ。マーカスはデジタル銀行だが、人間関係はどうしてもアナログで縦割り式という罠に陥りがちだ。

 マーカスで飛躍的に生産性が上がったのは、アジャイルポッドと呼ばれる小さなチームを中心とした構造に再編成してからだった。マーカスの従業員は現在、それぞれエンジニアやマーケター、弁護士としての機能上の役割を携えつつ、特定の目標、たとえば新規顧客が行う手続きに関わるプロセスの改善に専念するワークストリームに所属している。

 こうしたアジャイル構造は、短期的なゴールには向いているが、長期的ビジョンとのバランスを保とうとする際に難問を生むかもしれない。そこでこそ、リーダーが手腕を発揮できるとタルウォーは見ている。

 リーダーは、チームに何をすべきかを指示すること(たとえばオーケストラを統制する指揮者のように振る舞う)と、チームが自力で独創的な解決法を見つけられるよう基本原則を持つ共通の目的を設定すること(フラッシュモブを自主開催できるようにするなど)との間のトレードオフをうまく切り抜けていく必要がある。

 AI主導による競争の新時代は始まったばかりで、組織やリーダーにとって、まだ確たる戦略はない。ただし、一つだけ確かなことがある。それは、データとアルゴリズム、そして人の才能を利用することで業界の枠を超え、顧客ニーズに独創的な方法で応える企業こそが、未来の成功を手中にするということだ。

 伝統企業のリーダーにとって、いまは慎重に動くべき時ではない。テクノロジープラットフォームを進化させることに深くコミットしている顧客重視の組織と、経営効率だけをひたすら追求する組織との間のギャップはどんどん広がるだろう。

 経営効率だけを追求しても、かつてなく先行き不透明な未来に立ち向かうことはできない。つまるところ、企業を再構築する最大のチャンスは、一見簡単そうな次の質問に答えることにある。かつて想像すらできなかったようなAIの時代が訪れたいま、何ができるのか。


HBR.org原文:AI Should Change What You Do - Not Just How You Do It, September 21, 2020.


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