量子コミュニケーションと
量子コンピューティングの実際

 量子論が確率論的性質を持つことの一つの帰結として、量子情報は正確に複製することができない。セキュリティの面では、これは画期的なことだ。

 メッセージの暗号化と伝送に用いられている量子鍵をハッカーがコピーしようとしても、それは失敗に終わる。量子コンピュータやその他の強力なリソースを手にできたとしても、その試みは成功しない。要するに、基本的にハッキング不可能な暗号化システムをつくれるのである。

 この暗号は、今日用いられている暗号のように複雑な数学的アルゴリズムに基づいたものではなく、物理学の法則に基づいている。数学的暗号は、十分に強力なコンピュータがあれば破られてしまうが、量子暗号は物理学の法則を打破しない限り破られることがない。

 量子暗号が既存の数学的複雑性に基づく暗号と根本的に異なるのと同じように、量子コンピュータは既存の古典的なコンピュータと根本的に異なる。この両者の違いは、自動車と馬車くらい違う。自動車は、馬車とはまったく異なる物理学の法則に基づいている。自動車は、馬車よりも速く目的地に到達できるし、それまで到達できなかった場所まで到達できるようにもなった。

 同じことは、量子コンピュータと古典的なコンピュータの関係にも言える。量子コンピュータは、量子物理学の法則を活用して、古典的なコンピュータと異なる方法でデータ処理と演算を行う。このようなコンピュータは、ある種のコンピューティング上の課題をより速く処理することができ、それまで不可能だった新しい課題も実行できる。

 量子テレポーテーションは、そうした課題の一つだ。量子の粒子に埋め込まれた情報が一つの場所で消えて、遠く離れた別の場所で(同時ではないけれど)正確に再現されるという技術である。SF映画の世界の話のように感じた人もいるかもしれないが、こうした新しいデータ伝送の方法は、未来の量子インターネットの重要な要素になる可能性がある。

 量子コンピュータの特に重要な応用例としては、新薬開発と素材設計における分子のシミュレーションと分析が挙げられるかもしれない。

 量子コンピュータは、このような課題に特に適している。この種のコンピュータは、シミュレーションしたい分子と同じ量子物理学の法則に基づいているからだ。量子デバイスを用いて量子化学をシミュレーションすることは、現存の最も高性能なスーパーコンピュータを用いるよりも、はるかに効率がよい可能性もある。

 量子コンピュータは、複雑な最適化タスクを解決したり、ソートされていないデータを素早く検索したりするうえでも理想的だ。この機能は、さまざまな用途に応用できる。サプライチェーンのロジスティクス、従業員マネジメント、交通の流れの最適化にも利用できるし、気象データや医療データ、金融データのソーティングにも利用できる。