停滞後に起きたコロナ禍の後退

 ジェンダー平等の経済学に関する筆者らの推測は、2015年のマッキンゼー・グローバル・インスティテュート(MGI)のリポート「平等がもたらすパワー(The power of Parity)」に基づく。

 このリポートは、「仕事における平等」「必要不可欠(エッセンシャル)なサービスと経済的機会を可能にするもの」「法的保護と政治的な発言力」「身体的な安全と自己決定権」の4つのカテゴリーにわたる15のジェンダー平等指標を分析したものだ。

 MGIはこれらの指標を使って、社会におけるジェンダー平等と職場におけるジェンダー平等の間には強い関連があることを示した。また、社会におけるジェンダー平等の実現なくして、職場におけるジェンダー平等の実現はありえないことも示している。

 ジェンダー平等に対する意識とその実現を支持する声は高まっているものの、2014~2019年の5年間、職場においても社会においても具体的な進歩はほとんど見られなかった。

 たしかに妊産婦死亡率や、専門職や技術職における女性の割合、政治的代表など、一部の指標では改善が見られた。しかし全体として、職場におけるジェンダー平等は社会におけるジェンダー平等に比べて、常に後れを取っている。地域や国によって差はあるものの、女性の労働市場への参加レベルは、男性の3分の2程度のまま、ほとんど動いていない。

 女性はいま、コロナ禍が経済にもたらすインパクトの矢面に立っている。女性と男性では、働いている業界が異なることを考慮に入れても、女性の雇用は平均を上回るペースで減少している。仕事の性質上、いまだに男女の一方に限定されがちな職種も含めて、男女の偏りが大きい職種は少なくない。

 それは、コロナ禍の影響におけるジェンダー格差をもたらしている。筆者らの分析では、世界的に見て、女性は男性よりも雇用リスクにさらされる可能性が19%高い。これは、宿泊業や飲食サービス業のように、コロナ禍の打撃を受けた業界では、女性の従業員の割合が極めて高いことに起因する。

 しかし、職種によるジェンダーの偏りは、雇用喪失率の男女差の4分の1を説明するにすぎない。

 たとえば、米国ではコロナ禍前、労働人口に女性が占める割合は46%だった。業種による男女差を考慮に入れると、コロナ禍で仕事を失った人のうち43%が女性となるはずだ。ところが、実際の雇用統計を見ると、この割合は54%に達する。

 インドでは、コロナ禍前の労働人口に女性が占める割合は20%だった。業種による男女差を考慮に入れると、コロナ禍で仕事を失った人の17%が女性となるはずだが、実際には23%に達している。