企業はアプローチをどう再考すべきか

 企業はいま、立地に対するアプローチを再考して、見直すべき時を迎えている。

 立地選定とコミュニティ・エンゲージメントに際し、取引的な姿勢を改めなくてはならない。場所を考える際、企業側の特定の条件に見合う測定可能な一連の特徴を備えた、地図上の抽象的な点として見てはならない。人々が暮らし、子どもを育て、深い愛着を育む実際の地域社会として考えるのだ。

 そして、お題目を唱えるだけでなく実際に行動で証明しなくてはならない。地域社会に投資し、選んだ場所でより実り多い関係を築き維持するために必要な、あらゆるキャパシティの構築に投資するのだ。

 左派・右派ポピュリストともに企業とハイテク大手への反感を募らせる中、今後も反発は強まる一方だろう。高級化、格差、高すぎる住宅費に地域社会は懸念を抱いており、人種的・経済的正義を求めるブラック・ライブズ・マター運動も急激に広がっている。

 今日の環境では、競争優位を得るうえで立地戦略はかつてなく重要だ。筆者は自身の研究に加え、主要な企業、コンサルタント、市の首長と有力者、都市開発の専門家らと話をしてきた。合わせて、これらの問題について名門ビジネススクールで10年以上教えてきた。

 こうした経験に基づき、より効果的な立地戦略のアプローチを支える5つの重要な側面を以下に挙げたい。

 ●税金で賄われる優遇措置は断る

 公的資金で賄われる優遇措置は、毎年およそ500億ドルもの巨額に及ぶ。個々の企業への優遇は数十億ドルにまで上っている。この膨大な納税者の金は、教育やインフラ、手頃な価格での住宅供給、その他の公共財にも使うことができたはずだ。

 企業への優遇措置は、無駄遣いであり無益である。立地判断にはほとんど影響しないことが、詳細な研究によって示されている。企業(または企業の立地選定コンサルタント)は優遇措置を最大限に引き出すために虚構の誘致合戦を仕掛け、どのみち選ぶつもりであった場所を選ぶのだ。

 これに関しては、米国は極端に異常だ。たとえばEUは、管轄区域での税優遇策に厳しい制限を設けている。しかし米国では、連邦、州および地方自治体で似たような方針を策定する試みは、まったく進んでいない。公的規制が不在の中、企業はみずからを規制することが自社のためになると認識すべきである。

 ●自社だけでなく全体の発展を重視する

 企業は立地選定をもっと広い視野で考える必要がある。

 スポークを花形都市の郊外だけでなく、準大都市・中堅都市にも設けることは理にかなっている。花形都市には人材が大量に集まっているとはいえ、生活費はますます高騰し、格差がもたらす多くの問題が付きまとう。法外な家賃、高級化のまん延、極端な不平等、交通渋滞、ホームレス問題等々――これらを筆者は「都市の新たな危機」と呼んでいる。

 立地に関してはあまりに多くの企業が、横並び意識で互いに同じ場所へと追随し合う。いまこそ大胆なリーダーたちが、群れに背を向けて、新たな拠点を構築してもよい時期だ。投資の範囲を広げ、新しいイノベーションのエコシステム形成に手を貸し、スティーブ・ケースの言う「全体の発展(the rise of the rest)」を加速させるのだ。

 人材をめぐる地理的情勢は転換点を迎えていると思われ、さほど巨大でなく生活費が高くない都市が新たな魅力を持つようになった。フィラデルフィア、ピッツバーグ、コロンバス、インディアナポリス、ニューアーク、マイアミ、ナッシュビルがアマゾン第2本社の最終候補に入ったという事実にも、このことが反映されている。

 これらのほかにも多くの都市が、雇用創出のニーズがあり生活費が安いという理由で、沿岸部の花形都市よりもはるかに歓迎されている。そんな都市の一つに住むビジネスリーダーから、筆者はこんなふうに言われた。「『感謝を忘れない都市』に来てください、大いに歓迎されますよ、とハイテク企業に伝えてください」

 ●地域社会の真摯なパートナーとなり投資する

 地域同士を競わせようとしたり、地域を地図上の単なる点として扱おうとしたりする衝動を、企業は抑えなくてはならない。立地戦略は場所選びにとどまらず、地域社会と住民にとっても利益となるウィン・ウィンの形で管理し投資することが求められる。

 企業は大学や医療センターのような「アンカー施設」から学ぶことができる。このような機関は通常、地元のリーダーたちと緊密に連携しながら住居やアメニティ、雇用を創出する。

 すでに多くの企業が、こうしたアプローチを通じて地域社会と連携し、投資している。筆者が観察・関与してきた事例の一部として、以下が挙げられる。

・プルデンシャル生命保険はどんな時期にも頑なに、地元ニュージャージー州ニューアークに本拠を据え続けている。マンハッタンに移る他社や、郊外に移住する住民に追随せず、1960年代後半の壊滅的な暴動の後もとどまり、市への投資を強化してきた。

・アマゾンが第2本社探しを始めた頃、ウォルマートは同社発祥の地であるアーカンソー州ベントンビルに新たな敷地を建設すると発表した。ダラスやアトランタ、ニューヨークなどの花形都市に移るのは容易だったはずだが、同社は地元への投資をいっそう強化した。ウォルマート、地元の有力者、ウォルトン家の後継者らの支援を得たベントンビル市は、多くの先端的なプロジェクトとアメニティに投資し、世界水準の人材を惹きつける場所へと変わることを目指している。

 それらの投資事例として、クリスタル・ブリッジ美術館、その姉妹館として新設された現代美術センターのザ・モメンタリー、美術作品を鑑賞できるアートホテル、料理学校、恵まれない学生に奨学金を提供する新たな私立学校、数々のレストランとコーヒーショップ、新たな自転車道路網、アーカンソー大学でのさまざまなプロジェクト、機関、学部などがある。

・ジョージ・カイザー・ファミリー財団は、オクラホマ州タルサをリモートワークの中心地にすべく取り組んでいる。賞を獲得したガスリー美術館地区への投資などは、そのごく一部だ。

・クイッケン・ローンズの創業者ダン・ギルバートは、デトロイト中心部の再生に向けて巨額の投資をしている。

 ●最高立地責任者を設ける

 立地判断はもはや、不動産部門に押し付けておいたり、立地選定のコンサルタントに委託したりしたままでいてはならない。急成長中の大企業は、目的別の立地ポートフォリオを積極的に管理する必要がある。

 慎重かつ戦略的な意思決定を担保するために、経営首脳部に最高立地責任者(Chief Location Officer)を置くべきだ。配下のスタッフには、今日の経済地理、その土台となるデータ分析、地域マネジメントの実務に精通した人間を就かせる。単にMBAを持ち不動産や業務運営の経験がある者ではなく、市の仕事に携わり、地域の経済開発に取り組んできたプロフェッショナルでなくてはならない。

 これらスタッフの能力を補うために、元市長や経済開発担当者などで構成される顧問グループも必要だ。地域社会への適切な理解とマネジメント、そして差し迫った問題への対処に向けた地域との連携を支援してくれる人たちが、そのメンバーにふさわしい。

 この能力は、取締役会の中にも構築すべきだ。大企業は、元市長や市の有力者、地域開発者などを取締役として招き、立地と地域マネジメントの機能を監督する特別委員会を設置するとよい。

 ●立地戦略をビジネス教育の中心に据える

 ビジネススクールの努力も求められる。立地と地域マネジメントを、専門分野としてMBA受講者に教える科目とカリキュラムを設けるべきだ。

 立地戦略は、企業戦略の中核要素として教える必要がある。学校は教授陣の中から、経営戦略と不動産の専門家で地理的クラスターとエコシステムの新たな知見を生み出している人を起用するとよい。

 現在、トロント大学ロットマンスクール・オブ・マネジメントで筆者が担当する科目では、生徒に3つの主要テーマ群を考察させている。

 はじめに、立地判断を生徒自身の問題として捉えてもらい、戦略的かつデータドリブンで考えるよう促す。次に、スタートアップや大企業の新たな立地の探索と選定に伴う諸要因の一つひとつに取り組んでもらう。その後、市当局や経済開発組織との模擬交渉に参加させ、各当事者にとっての対立と争点の様相を理解してもらう。こうして、立地判断と地域開発のさまざまな側面について理解を深めてもらうのだ。

 いまこそMBAは、知識経営、企業戦略、不動産の領域を組み合わせ、立地と都市開発を重点研究領域とすべきだろう。また、より広範なエグゼクティブ教育も必要だ。特に上級マネジャーと取締役会メンバーのための、有益で実務家向けのプログラムが求められる。

 現在の私たちを取り巻く未曾有のストレス、変化、不確実性を踏まえれば、立地とコミュニティ・エンゲージメントは、ビジネスの教育と実践において同等に重要な焦点としなくてはならない。

 米国の経済地理は過去数十年で大きく移り変わってきた。コロナ禍によってこの変容は加速し、その方向性も変わろうとしている。状況が最終的にどう落ち着くのか結論を出すには早すぎるが、この変容は今後も続き、新たな企業環境がつくられていくだろう。

 先を見据える企業は、立地をかつてなく真剣に捉え、立地選定とコミュニティ・エンゲージメントを全社戦略の中心に据えるはずだ。結局のところ、立地がすべてなのである。


HBR.org原文:The Uncertain Future of Corporate HQs, September 18, 2020.


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