都心部の企業本社は去っていない

 企業本社の新たな立地傾向が反映しているのは、巨大な花形都市と大都市圏が圧倒的優位に立つ、著しい差を伴う勝者総取り的な地勢の台頭である。コロナ禍によってある程度の分散化が進む可能性はあるものの、この安定した立地傾向が大きく覆るとは考えにくい。

 ハブ・アンド・スポーク

 より可能性が高いのは、コロナ禍によって、主要な企業集積地の内部でビジネスの機能と所在地の分布が変わることだ。

 リモートワークが増えるにつれ、家族、高齢者やリスクの高い人々の多くは、密集度が少ない郊外や準郊外、もっと小さな町に引っ越すという選択をするかもしれない。その結果、より分散化したハブ・アンド・スポークシステムによる企業立地が形成される可能性が高い。主要な本社施設を都心部に置き、それを取り囲むようにリモートワーカーのためのサテライト拠点を置くという図式だ。

 この変化の影響はやがて、国全体のマクロ的な地理よりも、都市部と大都市圏におけるミクロ的な地理に多く表れるだろう。

 変化の程度と範囲は、最終的にコロナ禍がどれほど続くかによって決まる。2021年序盤にワクチンが普及し、かつての日常にある程度近い状態に戻るのであれば、変化は比較的小さいはずだ。しかしワクチンの完成がおぼつかないと判明して新型コロナが脅威であり続ければ、変化は長期化し、場合によっては恒久化すると思われる。

 いずれにせよ、リモートワークへの移行は一時的な傾向ではない。

 コロナ禍以前、米国労働人口の10~12%はパートタイムでリモートワークに就き、フルタイムでの在宅勤務はわずか2%だった。新型コロナが猛威を振るい始めた春以降、この数字は50%から最大75%まで跳ね上がった先頃の調査によれば、労働人口の約20%はコロナ禍の収束後もリモートワークをフルタイムで続け、残りの3分の1はパートタイムで続けるという。

 遠隔で仕事ができることで、人々は住む場所を柔軟に選べる余地が格段に高まった。ソーシャルディスタンスの必要性から、家族は屋外でも屋内でも空間の広さを重視するようになった。自宅の仕事場と子どものオンライン学習のスペースを確保するためにも、広さは重要だ。ゆえに都市部から立ち退く人も現れるだろう。

 とはいえ、それ以外の特定の人々を都市部へと押し戻す要因もある。キャリア初期の若い働き手は、都会に惹かれ続けるだろう。都市部のほうが給与が高く、大規模な職業的ネットワークがあり、友人やパートナーになれそうな人々の層も厚く豊かだ。

 2010年以降、都市近郊(中心部から約5キロ圏内)における人口増加分の約半数は25~34歳の若い高学歴者が占めており、この割合は伸びていく可能性が高い。彼らは小さなアパートに複数のルームメイトとひしめき合って住み、仕事とプライベートでの人間関係の充実化を求め、新型コロナウイルスをあまり恐れていない。

 したがって、オフィス空間は――会社の施設であれ、会社が費用を負担するコワーキングスペースであれ――彼らを採用するうえで重要なアメニティであり、特典なのだ。

 この傾向は大手ハイテク企業の間で失われておらず、都心部への投資を大幅に強化している企業がいくつもある。

 フェイスブックは2020年8月、ニューヨーク・ペンシルベニア駅の真向かいにある歴史的な郵便局の建物に、約6万8000平米という広大なオフィススペースを借りる契約を結び注目された。アマゾンは、コロナ禍以前に購入したニューヨークの象徴的な老舗百貨店ロード&テイラーの元旗艦店ビルに、数千人の社員を置く計画を継続中だ。

 こうした流出・流入の傾向は破壊的な変化というより、すでに進行していた変化の加速である。これらを差し引いて、社会的・物理的距離の確保のためにオフィスに手を加える必要性を考慮しても、都心部のオフィススペースの需要が実際にどれほど減るのかを判断するのは難しい。

 企業は少なくともしばらくの間、非リモートの従業員のためにより広いスペースを設ける必要がある。そして、現在のリモートワーカーの少なくとも半分、あるいは4分の3が、最終的にフルタイムのオフィス勤務へと戻るのではないだろうか。

 最近のCBREのレポートが発表した予測によれば、都心部のハブ(中心拠点)は企業の中枢機能を置くために今後も必要とされるという。若い人材を採用し維持するため、そして「ブランド・ステートメント」として機能させるためだ。

 小売チェーンがマンハッタンの5番街に旗艦店を出すのと同様である。スポーク(周辺拠点)には、フルタイムのオフィス勤務者と、郊外や準大都市・中堅都市に住むパートタイムのリモートワーカーを置くことになる。

 同レポートは、大企業がニューヨークやサンフランシスコといった花形都市の拠点を閉鎖、または大幅削減するという考えを完全に否定している。これらの人口密集市場には、「熟練の、多様な、引く手あまたの人材が配置される」という。

 レポートは次のように述べる。人口密集地との相性がまちまちな若年・熟年の従業員に、ハブ・アンド・スポークによって場所を提供する戦略は、「在宅勤務の増加とうまく適合し、オフィス勤務という選択肢を残しておきたい従業員に最適な柔軟性と安全性を提供することになる。従業員が集中する場所の付近に、配慮の行き届いた魅力的なサテライトオフィスを設ければ、働き手を惹きつけ、文化、コラボレーション、イノベーションを促進させる役割を果たす」

 ハブ・アンド・スポークへの移行は、生活費が高い一部の都市の経済と財政能力にマイナスの影響をもたらす可能性もある。

 とはいえ副次的メリットとして、郊外や地域全体の景気浮揚、通勤量および通勤に伴う排出ガスの削減、そして統合的な「15分地域」(15分の移動圏内で生活に必要なことの大半が事足りる)を形成する可能性が生じる。人々が仕事、生活、子育てを都市部でも郊外でも同じようにできるという、都市計画家にとってはこれまで夢でしかなかった目標だ。