戦略的国家備蓄の地位が
あまりに低い

 戦略的国家備蓄は、きわめて存在感が乏しいという問題を抱えている。少なくとも、コロナ禍以前、戦略的国家備蓄の活動を知る人は少なかった。その結果、影響力が乏しく、支持と資源を獲得することにも苦労してきた。

 2001年の9.11テロ後に戦略的国家備蓄が創設された時、米国の情報機関の最大の関心事はテロ攻撃だった。しかし、そのあと2度にわたる政権移行を経て、設立当初の危機感は薄れていった。

 専門家は世界規模の感染症危機のリスクに警鐘を鳴らしていたが、戦略的国家備蓄はほぼ忘れられた存在になり、政府内での優先順位が下がっていた。たとえば、全国規模の医療上の危機に対する戦略プランは、2017年以降、更新されていない。備蓄品を補充するための予算も、再三にわたり削減されてきた。

 こうして存在感と影響力を失っていった結果、戦略的国家備蓄は米国保健福祉省の巨大な官僚機構の中の小さなチームの所管に格下げされてしまった。ウイルス学者と臨床医が多数在籍している同省は、医療上の分析には長けていても、惨事を予測して準備することは得意でない。

 戦略的国家備蓄のマネジャーたちは、コロナ禍の早い段階で問題に気づいていた。中国における工場閉鎖と中国の国内需要の高まりにより、医療物資のサプライチェーンが脅かされかねないと見て取っていたのだ。

 新型コロナウイルスの感染が世界で最初に拡大した中国の湖北省武漢は、マスクやその他の個人防護具の世界最大の生産地でもある。しかし、保健福祉省内の医療専門家たちは、そうした警告を真剣に受け止めなかった。

「私たちは1月の時点で、武漢における個人防護具生産の問題を指摘したが、警告が日の目を見ることはなかった」と、戦略的国家備蓄のマネジャーの一人は筆者らの聞き取り調査に対して述べている。「連邦政府の人々は、グローバルなサプライチェーンがいかに複雑かを理解していなかった……私たちは上層部に対処を促そうとしたが、その声は届かなかった」。保健福祉省の官僚機構がようやく対応に動き始めた時には、世界の個人防護具の供給はすでにほぼ停止していた。

 戦略的国家備蓄の地位を高めて、影響力を強化する必要がある。その運営は、国防総省、米国生物医学先端研究開発局、国立労働安全衛生研究所、食品医薬品局(FDA)、疾病対策センター(CDC)など連邦機関の代表を集めた評議会組織によって行うべきだ。

 この点に関しては、国防総省内によいお手本がある。同省では、緊急の活動に用いる物資の獲得と配分の決定は、複数の部門により共同で下すものとされているのだ。

 一方、戦略的国家備蓄は、連邦緊急事態管理庁(FEMA)や保健福祉省などの行政機関とも活動を調整しなくてはならない。そのための最善の方策は、常設の協議体を設けて4半期ごとに会合を行い、さまざまな機関が最新の状況を把握できるようにするというものだ。

 戦略的国家備蓄が1月の時点でこれらの機関を動員し、国内の新しい供給源の発掘と創出と奨励を行わせていれば、マスクと人工呼吸器の不足はこれほど深刻にならなかっただろう。