ソフトスキルを安全に学ぶ

 ここ1年で、カスタマーサービスやマネジメントスキルを向上させるための「ソフトスキル」研修の需要が増えた。この研修でVRを使う事例は、学術研究による裏付けを基盤としている。

 たとえば、多くの研究で、人前で話すパブリックスピーキングを教えるためにVRが使われた。部屋いっぱいに人を集める費用がいかに高額かを考えると、VRは手軽さとコストの両面で大変革をもたらしている。

 さまざまな実験から、VRには他のトレーニングにはないバランスのよさがあることが明らかになっている。VRは実体験に近い没入感があるので真剣にトレーニングできる一方で、生身の人間の前で率直に話す時ほど自意識過剰にならずに済むという安全な環境を提供しているのだ。

 たとえばベライゾンでは、コールセンターで働く従業員に対して、怒っている顧客との会話を好転させる方法を教えるための研修モジュールを開発・運用した。研修の参加者は、顧客との会話がどんどん険悪になっていく状況下での話し方と、アクティブ・リスニング(積極的傾聴)を練習することができる。

 ベライゾンが収集した内部データによると、VRを使うことで研修の一貫性と有効性が高まっただけでなく、社員の研修に費やす時間が1人当たり10時間からわずか30分に短縮された。

 ベライゾン・ビジネス・サービシズのグローバル研修・開発部門のディレクターであるクレオ・スコットは、「研修を終えて職場に戻った従業員の進歩を上司経由で追跡したところ、従業員は以前よりも自信にあふれていた。顧客にどう対処しているかに関する自己認識が向上したからだ」と述べている。

現実世界より優れていることもある

 企業にとって、とりわけ新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない中、新入社員を自社の文化的規範になじませることは難しい課題である。前述の2つのケーススタディは過去に発表された研究の延長線上にあるが、研修がグループ全体の雰囲気や特性に何をもたらすかに関する学術的研究の例は、いまだほとんどない。

 スーパーマーケットチェーンのスプラウツ・ファーマーズ・マーケットは、企業文化こそが自社ブランドを差別化するカギであると考え、「互いを尊重して尽くし合う」や「健康的な生活様式を大切にする」といったコアバリューを重視している。同社は全米で新店舗を展開し社員の採用を続けているので、新入社員用の研修が欠かせない。

 スプラウツは、同社のコアバリューを体現するように設計された、一連のVR体験を設計した。たとえば、息子にグルテンアレルギーがあると気づいたばかりで大きな不安を抱える母親に適切な食品の買い揃え方を従業員が指南する、あるいは車で買い物に行けない高齢で持病を抱えた顧客に好物のスイカを配達しようと従業員が決める、といった体験である。

 同社は特定スキルの研修ではなく、認知心理学者が「事例モデル」と呼ぶものを取り入れ、模範となるような実例を通して、抽象的な価値観のコンセプトが定着することを目指している。

 スプラウツのコアバリューをどのくらい理解できたかについて、300人ほどの従業員を対象にテストを行った。半数がVRで研修を受け、残りの半数はパワーポイントによる従来型の研修を受けたところ、VR研修を受けたグループの48%が6つのコンセプトすべてを完璧に学んでいたのに対し、従来型のトレーニングを受けたグループではわずか3%だった。

 同社の店舗業務担当バイス・プレジデントであるシンディ・チカヒサは、次のように総評している。「新型コロナウイルスの流行前にこの研修を立ち上げることができて、本当によかったと思っている。ここ数カ月で何千人もの人々を採用したが、パンデミックの最中、VRなしによい新人研修ができたとはとても思えない」

 VRは新型コロナウイルスの流行前から人気を博しつつあったが、全世界規模のパンデミックが起き、リモートワークが推進されたことで、VRのようなツールに対するニーズが急増した。

 今回ケーススタディとして紹介した3社はいずれも、危機のさなかにも成長を続けており、社員研修を安全かつ効果的に、そして大規模に行うことの必要性が増している。いまのような時節にこそ、VRはふさわしいメディアである。


HBR.org原文:Is VR the Future of Corporate Training? September 18, 2020.


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