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人種間の不正義が問題視される中、多くの企業が抗議運動への支持を表明するだけでなく、みずからの行動を改めると約束した。その中には「最高ダイバーシティ責任者(CDO)」という役職を新たに設けて、適任者を探し始めた企業もある。この役職を単なるお飾りにせず、組織でDEIを実現するためには、CDOを採用する前に6つの問いを自問すべきだ。


 2020年5月25日、ジョージ・フロイドが死亡し、その後「ブラック・ライブズ・マター」運動が盛り上がり、さらには8月23日にジェイコブ・ブレイクが銃撃を受けるにいたって、米国と世界のリーダーたちはようやく、私たちが日々関わっている社会のシステムに人種間の不正義が深く根を張っていることに気づき始めた。

 そうした不正義は、地域コミュニティや学校、店舗、銀行、裁判所でも見られるし、住宅市場にもはびこっている。そして、人種間の不正義は、私たちが働く職場でもまかり通っている。

 こうした問題への関心の高まりを受けて、多くの企業は単に運動への支持を表明するだけでなく、自分たちの行動を改めることを約束した。その約束を果たすために、「最高ダイバーシティ(多様性)/エクイティ(平等性)/インクルージョン (包摂)責任者」の役職を創設することを決めて、慌てて社内外で人材を探し始めた組織も多い。

 本稿では、この重要な役職を務める人物を採用するに当たり、リーダーが自問すべき6つの問いを指摘したい。

なぜ、いまなのか

 いま多くの企業は、社員や顧客、投資家、納入業者などから、いわゆる「DEI」――ダイバーシティ(Diversity:多様性)、エクイティ(Equity:平等性)、インクルージョン(Inclusion:包摂)――に力を入れるよう求める圧力を感じ始めている。

 しかし、あなたの会社を取り巻く状況のどのような点がこれまでと変わったのか。1年前や3年前にはその必要性を感じていなかったのに、なぜいま最高ダイバーシティ責任者(CDO)を採用しようと思うのか。

 それは、最高経営責任者(CEO)や最高人事責任者(CHRO)などの最高幹部が交代したからなのか。それとも、幹部チームの構成員は変わっていなくても、DEI重視の方針を新たに固めたのか。

 また、あなたは、危機を経験してDEI重視の必要を感じるようになったのか。それとも、危機を未然に防ぐために、そうした取り組みを始めようと考えたのか。

 いずれにせよ、DEIを重視することになった理由と、現状でどのくらい自社内で包摂が進展しているかを、採用候補者に率直に伝えよう。

採用する人物に
どのような資質を要求するのか

「候補者は、12~15年間のDEI関連の職務経歴と、大学院修了以上の学位、そして社内で包摂を推し進めるための具体的な計画を策定・実行してきた経験の持ち主であること」――もしこのようなことを募集要項に記しているとすれば、採用活動はうまくいかない可能性が高い。

 2020年版の「グラスドア雇用採用トレンド(Glassdoor Jobs & Hiring Trends)」の報告書によれば、いまトップクラスのDEI関連の人材は争奪戦になっている。この報告書をまとめたグラスドアのチーフエコノミストであるアンドリュー・チェンバレンは、こう述べている。「2020年以降、社内の人材のダイバーシティとインクルージョンを高めるという使命を推進できるリーダーやマネジャーの採用ラッシュが起きるだろう」

 ビジネス界でこのテーマに関心が向けられるようになったのは、おおむね最近のことにすぎない。米国のビジネス界でようやくダイバーシティ研修が実施され始めたのは、1980年代以降のことだ(これは、公民権関連の訴訟への対策が目的だった)。この分野は、それまで十分な人材と資金、そして努力がつぎ込まれてこなかった。

 その点を考慮すると、DEI分野そのもので上級幹部としての経歴がある人物を探すよりも、視野を広げて採用活動を行ったほうがよいかもしれない。ほかの分野で経験を積んできた人物でも、しかるべきスキルを持っている人を候補に加えたほうがよさそうだ。

 そのスキルとは、ほかの人たちの思考と行動に影響を及ぼし、変革の担い手(チェンジ・エージェント)になる能力、戦略を立案して成果を挙げる能力、評価指標をつくって説明責任を明確化する能力、組織内のあらゆる階層に対して有効なコミュニケーションを行う能力である。

 マーケティング、セールス、コミュニケーションの分野で活動してきた人物は、この点で打ってつけかもしれない。また、正式な肩書や役職こそなくても、社内でDEI関連の活動を主導してきた人物や、従業員リソースグループ[訳注]の支援役を務めてきた幹部も候補に加えよう。この役職を務めるためには、人事部門でのキャリアを歩んできた人物である必要は必ずしもない。

 ウォルマートで最高カルチャー・ダイバーシティ・インクルージョン責任者を務めるベン・サバ=ハサンは、現在の役職に就く前、IT部門のリーダーとして長年経験を積んでいた。セールスフォース・ドットコムの最高エクイティ・リクルーティング責任者であるトニー・プロフェットは、マーケティングやオペレーションなどの分野で活動してきた人物だ。

 ズームが最近採用した同社初のCDOであるダミアン・フーパー=キャンベルは、財務畑のキャリアの持ち主である。グッチでグローバルDEI責任者を務めたルネ・ティラードは、最高執行責任者(COO)の経験を持つ。