考慮すべき要素は多く、連立方程式は複雑化している

 新型コロナ以前から、サプライチェーンを国内に戻す動きはあった。中国に集中した生産拠点を見直す「チャイナ+1」を掲げ、国内または他のアジア諸国への分散を図る企業もあった。

「中国の人件費の上昇が、企業の背中を押したのは確かでしょう。ただし、人件費は重要なKPIではありますが、商品がハイエンド化、高付加価値化すればその重要度は下がります。日本の製造業では高付加価値化を志向する傾向が強く、このことが国内回帰を後押しする大きな要因になっているとも考えられます」(西岡氏)

 ハイエンド商品において、付加価値の大きな部分を占めるのが知的財産である。ソフトウェアや化学、素材といった分野では知財をブラックボックス化しやすい。一方、それが難しいのが組み立て系のものづくりだ。そこで、「全体的な構図としては、ブラックボックス化しやすい基幹部品は国内で、組み立てのプロセスは市場に近いところで、という方向に進みつつあるように見えます」と西岡氏は指摘する。

 サプライチェーンのリスク要因としては、米中貿易摩擦も重要だろう。加えて、FTAやEPAといった貿易の枠組み作りの動きからも目が離せない。サプライチェーンの連立方程式は、ますます複雑さを増しているように見える。連立方程式で考慮すべき要素には、製品または生産プロセスに関係するトレンドもある。西岡氏は「AIやデジタル化、自動化、サービス化、標準化、共通化などの進行が、サプライチェーンに大きな影響を与えます」と語る。

 例えば、工場の自動化が進めば人件費の重要度は下がる。製品モジュールの標準化・共通化は、組み立ての付加価値を低下させるだろう。アフターサービスがより重視されるようになれば、顧客に近い拠点の機能を拡充する必要があるかもしれない。また、製品に占めるソフトウェアの比重が高まれば、スマートフォンのように、ソフトウェアのアップデートだけで製品機能を向上、あるいは多様化することができる。スマホに限らず各種IT機器をはじめ、さまざまな製品がこうした方向に進化し始めている。