日本固有の文化を強みに

松江 今後日本が文化を価値に転換していくためには、どうすればいいでしょうか。

水野 日本の経営者は苦手意識を持つ人が多いようですが、先ほど松江さんがおっしゃった通りもともと日本人はとても「文化」に秀でているんですよね。確かに、戦争、敗戦、高度経済成長という一連の流れの中では文明偏重型の進化が続きましたが、過去は決してそうではありませんでした。金閣寺のようにぜいを尽くした建物を迎賓館として使い、海外交易をスムーズにしていた、というようなエピソードは文化と文明の融合、まさに「文化と文明のハイブリッド」を実現していたことを示しています。

松江 日本が高度経済成長期に得意としていた文明的な強さと古くからある文化的素地、この両極を兼ね備えているからこそ、ここに日本が飛躍するチャンスがありますね。

 先日ある学者さんとお話ししたときの指摘が印象的でした。「日本は0から1を生み出すのは得意だけど、1を2にしたり、3、4、5……とスケールさせるのが下手である。でも、もっと先の、例えば9ぐらいまで成熟したものを10に飛躍させるのは得意だ」と。最初と最後があって真ん中がないんですよね。ここも「両極」といえるでしょうが、この特長を日本がどう生かしてゆけるか、が肝心です。

水野 面白いですね。現在は、いわば「1から9の時代」でしょう。だから、日本にとっては不遇の時代といえるかもしれませんし、逆に「両極」をつなぐことがより一層大事な局面を迎えているということなのでしょうね。

松江 先ほどの文化論に引き付けて表現すれば、日本には文化を生み出す素地はある。しかし素地はあるが具現化する方法が分からない。そんな状況だからこそ、両者をつなぐ水野さんがご活躍している。

水野 そもそも昭和初期ぐらいまでは、経営者自身がその部分も担っていたと思うんです。ところが戦後から高度経済成長というシークエンスで、それが忘れられてしまった。だからデザイン的には60〜70年は暗黒の時代です。80年代に「広告」が華々しく隆盛してデザインが注目されましたが、その半面、デザインと広告があまりに強く結び付き過ぎて意味が狭まってしまったのは残念ですね。

松江 当時はモノを作れば売れた時代ですから、モノのプロモーションをデザインするだけで良かったのですが、これだけ市場が飽和し、さらにコロナショックが打撃を与えている今、改めて、個別の製品や事業のレベルではない“経営そのもの”のデザインが求められている時代なのだと思います。

水野 僕は、経営をデザインすることを「ブランディングデザイン」という言葉で表現しています。デザインの力を生かして、経営者も従業員も、自分の会社や自分の仕事にプライドが持てるようにしたい。誰にでも瞬時に情報が伝わるようになった今こそ、リクルーティングにも、消費者とのコミュニケーションにも情報のデザインが不可欠です。

 日本という社会は、潜在的な文化の力があるので、デザインを通して価値を発揮できる可能性がまだまだたくさんあると思っています。

松江 まさに、世界に向けた日本のブランディングデザインが重要ですね。

 今はコロナショックで海外との行き来が停滞していますが、2019年の訪日外国人数は約3200万人。4年で日本の人口以上の外国人が日本を訪れる計算です。この積み重ねの意味は非常に大きい。というのも、インバウンドは直接的な経済効果にとどまらず、日本文化に触れ、「本物」を体験したことによる「日本のファン」を増やすことにつながるからです。

 文明力の高さに加えて、日本の文化性の高さを経験した人が世界に増えれば増えるほど、日本発のビジネスの可能性も広がるでしょう。日本が持つ文化性の高さを通して、「文化と文明のハイブリッド」で経済価値を上げていく。日本社会が持つ未来への可能性に大いに期待したいですね。

本日はありがとうございました。

[対談を終えて:松江英夫]

両極化を生き抜く「最適化」。それは“個性”の発見と表現による“本物”の創造

 今、経営のど真ん中にデザインが必要になっている。コロナショックの下にあって各企業が存在意義を問われる中では、パーパスを明確にし、組織としての意思、世界観を示す“デザイン力”がより重要になる、と水野さんとの対談で改めて痛感した。

「両極化」の時代とは、“本物”の時代である。そこを生き抜く上で求められる「最適化」とは、単に白か黒かの二者択一ではなく、それぞれにとって最適なグラデーション、多様なつながりをつくってゆくこと、にある。つまり「最適化」とは個性の発見と表現に他ならない。これは個人と組織、企業と社会のあらゆるレベルに求められてゆくだろう。

水野さんとの対談では、驚くほどお互い共感し合える言葉たちに満ちあふれていた。その中でもとりわけ「文化と文明のハイブリッド」。これは、まさに日本社会が今後追求すべき「最適化」のキーワードだ。

文化とは、なかなか目に見えないながらも、人々の世界観や個性に基づく歴史的営みが集積された偉大なる無形資産である。文明の高さにけん引されて経済成長を果たしてきた日本だが、実は歴史的には優れた文化があり、それらをハイブリッドで打ち出すことこそ、今後グローバルに日本の価値を高める原動力になる。“日本”という個性を発見し表現してゆくブランディングデザインが、日本社会の未来の可能性を開くことにつながる。

両極化を生き抜く最適化、それは自らの“個性”を信じ尊重するところから始まるのだ。