日本企業に求められる「文化と文明のハイブリッド」

松江英夫(Hideo Matsue)
デロイト トーマツ グループ CSO(戦略担当執行役)

経営戦略・組織改革/M&A、経済政策が専門。フジテレビ「Live News α」コメンテーター、中央大学ビジネススクール客員教授、事業構想大学院大学客員教授、経済同友会幹事、国際戦略経営研究学会理事。主な著書に『両極化時代のデジタル経営——ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社、2020年)、『自己変革の経営戦略~成長を持続させる3つの連鎖』(ダイヤモンド社、2015年)など多数。デロイト トーマツ グループに集う多様なプロフェッショナルのインサイトやソリューションを創出・発信するデロイト トーマツ インスティテュート(DTI)の代表も務める。

松江 私は、企業のみならず日本の社会全体に目を向けたときに、日本が持つ一番の強みは、「最適化」する力にあるのではないかと考えています。

 日本には、古くは浄土真宗僧侶・清沢満之の「二項同体」という概念が存在しているように、相矛盾するものも「二項対立」と捉えずに一体のものと捉える気質がある。また、和洋折衷という言葉に代表されるように、未知のものを取り入れカスタマイズして新たなものに作り替えるのが得意であり、文化として根付いていると考えています。

水野 僕もそう思います。今、多様性の時代ともいわれますが、世界に多様な価値観があふれているのは当然で、これまでも多様でなかった時代なんてありませんでした。大事なのは、多様性をどう受け止め、どう最適化するかです。日本では古来、自然のありとあらゆるものに神が宿っているとして「八百万の神」を信仰してきたぐらいですから、もともと多様性の受容力が高い。なので僕も、多様性を受け入れて「最適化」するということは、日本に文化として根付いていると思います。

松江 ただ、日本では無形のものにお金を払う意識が希薄です。文化性や情緒性は経済的に評価されづらい。

水野 確かに、デザインや文化というと「それ、お金になるの?」みたいな反応をする経営者は少なくありませんが、もちろん、文化はお金になります。スターバックス(以下、スタバ)が何を売っているかを考えれば明らかです。スタバの日本上陸は96年ですが、当時もしベンチャー企業がスタバと同じビジネスモデルをデータと理屈だけでプレゼンしていたら、誰も投資なんてしなかったでしょう。たばこも吸えない、値段も高い。そんなコーヒーショップが当たるはずがないと。しかしスタバは業界の地図を塗り替えました。それはなぜか。シアトル生まれのコーヒー文化をうまく移植したからです。アップルが売っているのも、電話やPCじゃなくて文化です。世界にはそういう企業がどんどん増えています。

松江 日本においても、企業はしっかりと世界観を表現して価値を高め、消費者はそれに対価を払う。双方が意識をもっと高めていかなくてはいけませんね。

水野 その通りです。しかし、そもそも日本には、中身がいいのに、良さを表現できていない企業や製品がまだまだ多い。これは、文化をないがしろにして文明ばかりを追っている、と言ってもいいかもしれません。歴史を振り返ると、技術主導の「文明」にちょっと遅れて、美意識に主眼を置いた「文化」が生まれるサイクルがはっきり見えてきます。大航海時代の後のルネサンスが典型ですが、日本でも戦国時代の後に華麗な安土桃山文化が興隆しましたし、英国では産業革命の後にアーツ・アンド・クラフツ運動が起きました。これを敷衍すると、現在もまた文明から文化への転換期なのです。お金に換算できない価値をうたうSDGs(持続可能な開発目標)なんて、まさに文化ですよね。かつて日本企業は、車や時計の機能をどんどん高めて世界を席巻しましたが、これは文明の領域でした。これからはここに文化を加えていかなくてはならないと思います。

松江 世界には文化を取り入れた企業が増えていく一方で、日本の多くの企業は、デジタル化の中で「モノの売り切りからサービス化へ」を合言葉に一斉にかじを切っています。しかし、ただ単にサービス化へのかじを切るだけでは「モノとサービスの合体」になってしまいます。これではビジネスでの成功確率は上がらない。だからそこに“文化”を取り入れていくことが、付加価値やビジネスでの成功確率を高める要因になるかもしれませんね。

水野 以前、南アフリカで開催されている「Design Indaba」というデザインの国際カンファレンスで講演したことがあります。南アフリカがなぜデザインに注力するかというと、金やダイヤモンドなどの資源に恵まれているにもかかわらず、貧困が続いているという矛盾を抱えているからです。国内の資源は全て外国に買われ、国外で何十倍もの値段で取引される。生の「資源」を売るだけではいつまでたっても国が豊かにならない──。ならば付加価値を生み出すデザインに注力しようというわけです。

 日本はこうした姿勢に学ぶべきです。これまで日本は技術や機能といった「文明」ばかり輸出してきました。インバウンドなどの世界の反応を見ても、日本は本来、文明より文化にポテンシャルがあるように思えてなりません。

「文化と文明のハイブリッド」にこそ、これからの可能性があるのではないでしょうか。

松江 なるほど、「文化と文明のハイブリッド」。これは、日本の企業や社会にとっての強みを生かして最適化する上でとても良いキーワードですね。