新型コロナウイルスの感染拡大で、ビジネス環境の不確実性がますます増す中、中長期的に持続可能なビジネスモデルを再構築することは、あらゆる企業にとって大きな課題となっている。企業のdX(Business Transformation with Digital)の取り組みがかつてなく活性化しているのもその証左だ。そこで浮上するのが、これまでの常識では捕捉できない「見えないリスク」や「未経験のリスク」に対応するガバナンス体制をどう築くか、という難問だ。現場の戦略をただ追認するだけの「後追いのガバナンス」から、リスクや不確実性を予見して企業の進むべき方向性をガイドする「先回りのガバナンス」へ。今、時代に合わせた変革が求められている。

矢部 誠:有限責任監査法人トーマツ パートナー/Deloitte Analytics日本統括責任者
Makoto Yabe

Deloitte Analyticsを立ち上げ、先進分析手法やビッグデータ分析・活用基盤の研究開発部門をリードしている。多数の監査・コンサルティング業務に従事するとともに、監査・保証事業のデジタル化、新たな監査手法の開発・導入によるイノベーションを推進する。

コロナショックに急増した「未経験のリスク」

 これまでのガバナンスにおいては、経営執行部が決めた戦略を審議したり、オペレーションのプロセスが所定のルールに準拠しているかどうかを確認したりといったことに主眼が置かれてきた。しかし、そうしたガバナンスで視界に捉えられるのは、過去の情報のモニタリングで浮かび上がる「見えるリスク」や、過去に発生した事象の延長線上で想定する「経験済みのリスク」に限られる。いわば「後追いのガバナンス」だ。しかし、デジタルシフトが進むにつれて、既存のルールでは処理できないリスクと向き合い始める企業が増えていた。そこに発生したのがコロナショックだ。

 未曾有の事態ともいえるコロナショックにおいては、あらゆる企業が想定できていなかったリスクや経験したことがないリスクと向き合うことになった。さらに、急速に非接触型コミュニケーションの実現を迫られることとなり、デジタルシフトが急速に拡大した。これにより、大多数の企業が、「見えないリスク」「未経験のリスク」そのものであるコロナショックはもちろん、新たなデジタル・テクノロジーの活用によって発生した「見えないリスク」「未経験のリスク」とも向き合うことになったのだ。

 不確実性が高まる両極化の時代においては、この動きがさらに加速していくだろう。それ故に、リスクに向き合う「ガバナンス」の在り方自体の抜本的な見直しが求められている。例えば、内部統制を「財務報告のためだけの内部統制」という従来の認識では「見えないリスク」「未経験のリスク」をカバーし切れない。よって本稿では、「ガバナンス」という語を、取締役会や監査役の役割など業務に限った狭義の意味合いではなく、企業経営や事業運営において執行機能をサポートする経営企画やリスク管理部門、コーポレート機能を担う法務・コンプライアンス、情報セキュリティ、リスクマネジメントや内部監査部門を含めた役割や業務を広義のガバナンスと捉えて解説する。