母親になったばかりの女性が仕事への復帰を困難に感じる理由について、母性の神経生物学に関する最近の研究からヒントを得ることができる。出産後に神経学的および構造的変化が起こり、女性がそれ以前に果たしていた機能を正確に再現するのが難しくなることがあるのだ。

 脳は古い回路を排除し、新しい回路を形成して、みずからをリデザインする。その結果、脳は「心の理論」のために最適化されたようになる。心の理論とは、他者の考えや認識を類推し、理解する力のことだ。

 こうした認知や知覚の並外れた力は、毛むくじゃらのマンモスに囲まれて暮らしていた、我々の祖先が生き永らえるのに役立った。それらはまた、赤ん坊の泣き声から何を求めているかを理解するという、不思議な能力を母親に与えている。

 しかし、脳は、現代の私たちが働く環境を知らない。排除された回路は、仕事を遂行するために頼っていたものだったかもしれない。

 あなたがキャリアを中心に成人期のアイデンティティを構築していたら、「マミーブレイン」に悩まされて、自分の基盤が揺らぐかもしれない。しかし、あなたをさらに不安にさせるのは、一部の人が感じる、何よりも母親業に従事したいという突然に湧き上がる本能だ。

 この2つのアイデンティティ、2つの一見相容れない自分のあり方が衝突することで、従来からあるアイデンティティ・クライシスが起きる。

 こうして自分の位置を見失うことは、単に心が落ちつかないだけではなく、不安、抑うつ、燃え尽き、人間関係の問題、さらには薬物使用につながる恐れがある。筆者のクライアントのうち働く親の大半は、新型コロナイウルス感染症の流行により、混乱の中でリモートワークに移行したことで、その状況がより困難になっている。

 かつては家庭と仕事の間に引くことができた境界線が曖昧になり、仕事に意味を与えていた人間関係もビデオチャットをするだけのものになってしまった。多くの人が自分らしさを感じられなくなるのも不思議ではない。

 アイデンティティを選別することは、長く、複雑な道のりになることがあるが、自分の置かれた複雑で新しい世界への対処法を見つけるために、筆者がクライアントに提供しているのが、2つの精神的な「再考」である。