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親になった瞬間、あなたの人生は大きく変わる。子育て中心の生活に移行することで、仕事で積み上げてきた「自分らしさ」を喪失したように感じ、アイデンティティ・クライシスに陥る人も珍しくない。母親のほうが、こうした悩みを抱える傾向が強い。この難問を確実に解決する方法はないが、筆者は「成功」と「自分自身」について再考することが有効だと言う。


 親になることは、あなたを変える。あなたがそれまで果たしていた役割、あなたが語っていたアイデンティティ(弁護士、愛犬家、サイクリング・エクササイズの愛好家など)は、すべて新しい責任に次ぐものになる。

 このような優先順位の変化が、アイデンティティ・クライシスにつながる人もいる。これは特に女性に当てはまり、社会的、神経学的な理由から、女性は家庭と仕事で求められるものがかけ離れていると強く感じる傾向がある。

 プレッシャーの大きな仕事に就く人が直面するメンタルヘルスの問題を専門に扱う臨床心理学者の筆者は、親になった後に「自分らしさ」を取り戻す方法が書かれた記事や論文を頻繁に読む。しかし、そのための簡単な答えはないし、安心感や明晰さをすぐに得られるヒントや秘訣のトップ10リストも存在しない。

 筆者の長年のクライアントであるレイチェル(個人情報保護のため仮名)は、以前はやり手のトレーダーで、筆者の知る限り、人生で失敗をしたことがなかった。

 彼女は、自分がワーキングマザーとしてうまくやっていけないとは思ったこともなかった。ストレスの多い環境でマルチタスクをこなすのが自分の仕事のようなもので、家庭で少しばかりタスクが増えることは、それほどハードではないと思っていたのだ。

 しかし、産休を経て仕事に復帰したレイチェルは、気持ちが落ち着かず、集中できないように感じた。オフィスでは自分の基準を満たすパフォーマンスが出せず、自宅でもミスをしてばかりのように思えた。彼女は自分の能力と知性を中心にアイデンティティを構築していたが、そのすべてが自分のものではなくなったかのようだった。