世界的に高い評価を得た『知識創造企業』からおよそ25年を経て、その続編にあたる『ワイズカンパニー』(共に東洋経済新報社)がこのほど出版された。共著者であるハーバード・ビジネス・スクールの竹内弘高教授に、本書の出版の狙いとコロナ禍において企業がどう生き残ればよいのか、これからの戦略論について聞いた。(聞き手:小島健志・DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部副編集長、撮影:鈴木愛子)。

『知識創造企業』にはない2つのポイント

──野中郁次郎・一橋大学名誉教授との共著『知識創造企業』(The Knowledge-Creating Company)の出版から25年経て、続編『ワイズカンパニー』を出版されました。なぜいま、出されたのでしょうか。

 端的に言うと、知識創造を一度行っただけでは、企業が生き残ることはできないと考えたからです。

 前著では、イノベーションの力学がどのように築かれているのかを、SECI(セキ)と呼ぶプロセスを通じて、解き明かそうとしました。

 ここで知識には形式知と暗黙知の2種類あると明記しました。当時、世界で注目されたのも、この暗黙知をきちんと取り上げたからだと思います。

 個人の暗黙知が形式知へ、そして組織の形式知へと変換され、それが次第に組織的知識につながる様子を、SECIを基に描きました。こうした知識創造がイノベーションをもたらす、それが前著で伝えたいことでした。

 SECIは、共同化、表出化、連結化、内面化という4要素を2×2のマトリックスで表します。これを時計回りにぐるりと回せば知識創造につながるのだと、多くの方にご理解いただきました。

 ですが、これを一度回せばよいのだという印象が広がってしまいました。実はイノベーションを1回だけ起こせば終わりというわけではないのです。

 本田技研工業(ホンダ)を見ても、70年以上の歴史の中で実に4回ものイノベーションを起こしています。ピストンリングからオートバイ、そしてオートバイから自動車へ、さらに近年では自動車から飛行機(ジェット)へと、イノベーション領域を移しています。

 これはホンダだけではありません。日本の長寿企業を研究すると、知識創造を繰り返し行っていることがわかりました。

 つまり、生き残る企業とは、絶えず新しい知識を創造し、社内に浸透させ、行動に移し、さらにその行動からまた新しい知識を創造することを繰り返しています。これにより、持続的なイノベーションが保たれてきたというわけです。

 実はこの「持続的」(Continuous)が本書のキーワードの一つです。

 もう一つのキーワードが「スパイラル」(Spiral)です。SECIを一度回すのではなく、ぐるぐると回していくと、その知識は個人から組織へ、組織から組織間へ、そして組織間からコミュニティへ、最後はコミュニティから社会へと広がります。知識の規模と質は増幅し、スパイラルに上昇していくのです。

──最初のSECIが2次元のモデルに対して、今回のSECIは多次元モデルで、竜巻のように下から上へとどんどん渦が大きくなるイメージですね。

 ええ、それまでのSECIに何が加わったかというと時間軸です。マトリックスに時間軸を入れて3次元の図で表すことで、知識創造が時間をかけて社会に波及していくことが示せます。

 つまり、知識創造を持続的に行うことで、個人の暗黙知が最終的には社会全体の知となり、大きな社会的なインパクトにつながるという点を強調したかったのです。企業は、個人と組織だけではなく、組織と社会とをつなげて考えていく必要があるのです。

 それでは、このSECIスパイラルの原動力になるものは何でしょうか。それが実践知(Practical Wisdom)です。SECIスパイラルの中心には、太い矢印を入れており、これが実践知を表現しています。

 我々は実践知を備えたリーダーをワイズリーダー(または賢慮のリーダー)と呼び、そのリーダーに率いられた組織をワイズカンパニーと呼んでいます。