現場の「可視化」を超え、「透明化」を目指す

 サプライチェーン上のデータは膨大であるため、ビッグデータを適切にハンドリングする仕組みが必要になる。それが、DSNにおける情報流通機能の核となる情報プラットフォーム「デジタルコア」だ。デジタルコアは、データ収集を担うIoT基盤、多様なデータを統合・連携させる統合データベース、社内外のデータをつなぎ込むAPI基盤、ビジネスプロセスを担う基幹システム、集積した情報を可視化するBIツール、意思決定を支援するSCPツール、インサイトを抽出するAIやアナリティクスといったデジタル・テクノロジーを連携させて構成する多層的なシステムだ。これは、DSNの中心で常に情報収集と解析のプロセスを動かしており、経営者をはじめとする意思決定権者は、必要なときにいつでもデジタルコアにアクセスして必要な情報を引き出し、意思決定に生かすことができるようになる。

 この設計において重要なのは、サプライチェーンの活動状況をただ「可視化」するだけで満足せず、プロセス全体の「透明化」を実現しようという意識を持つことだ。つまり、サプライチェーン上で起きていることが、実際に経営にどんなインパクトをもたらすのか、あるいは、何が原因となって現在の状況が起きているのかという相互関係やロジックを明らかにし、あらゆる変化を説明可能、予測可能な状態に近づけることを目指すのである。

 例えば、生産量を売上原価に、在庫量を売上原価に、というように単純に管理指標を読み替えるのは「可視化」のレベルだ。これに対して「生産工程で歩留まりが低下しているのは、2カ月前の原料調達のコストカットに原因があり、それを放置すれば1年後に利益率が○%低下する」というように、原因から結果の流れまでをクリアにするのが「透明化」である。この「透明化」においては、「いつ」という時系列の視点が欠かせず、自社だけではなく、サプライヤーや製造委託パートナー、物流パートナーなどの情報までを捉える視野の広さも必要となる。

 可視化を超え、透明化まで実現できていれば、生産部門に無理な「頑張り」を求めるといった誤った施策で現場を疲弊させる愚を防ぎ、より適切な予算配分や新たな製造プロセスの開発など科学的に正しい打ち手を講じることができる。部門に閉じた部分最適の改善ではなく、より長期的な経営ビジョンに基づいた全体最適と価値創出が可能になるのだ。

SCMからDSNへの改革が企業のレジリエンスを高める

 このように理にかなった意思決定を繰り返すことは経営に対する信頼感を高め、より良い企業カルチャーの創造にもつながっていく。デジタル・テクノロジーを活用することで複雑な環境からインサイトを得て経営を最適化していく。このような営みにこそdXの本質があるといえるだろう。

 サプライチェーンの再構築や高度化は、長期間にわたる業務改革を伴う大規模な取り組みになるため決して簡単ではない。しかし、DSNを活用して環境変化に応じた機動的な経営方針が策定できる仕組みをいったん構築できれば、予期せぬクライシスに直面した場合の危機対応力が大幅に向上することは間違いない。

 現在進行形のパンデミックでサプライチェーンの課題が浮き彫りになった今こそ、「モノを動かすことを主眼にしたSCM」から、「経営にインサイトを与えるDSN」への改革を進め、危機的状況に直面したときにも冷静に最善手を打てる体制を整え、企業のレリジエンスを高めるときではないだろうか。