AIプロジェクトを成功に導く2つのカギ

──AIプロジェクトの8割は失敗するとのことですが、失敗するプロジェクトに共通する原因はありますか。

ジェレミー・アシン(Jeremy Achin)
DataRobot ファウンダー・CEO
マサチューセッツ大学ローウェール校で数学、物理学、コンピューターサイエンス、統計学を 学ぶ。Travelers-Insuranceのリサーチおよびモデリングディレクターを経て、2012年に起業。企業経営の合間にいまでもデータサイエンスコンペティションのプラットフォームKaggle.comで予測モデルを構築するなどしている。

 私はこれまで膨大な事例を見てきましたが、失敗の原因はほとんどが「カルチャー」と「ユースケースの選択ミス」の2つに集約されます。

 カルチャーは企業や人に起因するものです。私の経験では、関わる全員が「成功したい」と心から思っているプロジェクト、つまり変革に対して前向きなカルチャーのあるプロジェクトは成功します。経営層が事業変革の意思を持っており、データサイエンティストが課題解決に前向きなだけでなく、ビジネス側も含めて全員が「仕事のやり方を変えよう」と強く思い、その変化を受け入れるカルチャーがなければ、生み出したシステムはどこにもたどり着きません。私たちの仕事の本質は「ユースケースを売る」ことではなく「カルチャーの変革を売る」ことなのです。

 ユースケースの選択では「ビジネス課題のどの部分をAIで解決するか」を決めることが重要です。しかし実際の現場では、成功への道筋をはっきりさせないまま「使えそうなデータがたくさんある」という安易な理由でユースケースが選ばれていることが多いと感じます。

 私はAIをインテリジェンスだと考えていますので、その力を最も生かせるのは「意思決定(ディシジョン)」に関連する領域だと思っています。注目すべきは、意思決定にまつわるデータセットが大きいところです。データが大量になると人の手に負えなくなり、機械に任せた方が正しい判断に到達しやすいからです。最終的な判断は人間が下すとしても、機械にレコメンドさせ、結果をシステムにフィードバックするといったことを続けていけば、人も機械も学びが深まり、価値を生み出すチャンスが広がります。

── AIのエンタープライズ適用に際して、経営者はどんな役割を果たすべきでしょうか。

 まず正しいユースケースを選ぶことです。「AIに投資しなければ」と意気込んでプロジェクトを始めたものの、ユースケースの選択を誤ったために成果につながらず、やる気をなくしてしまう、という失敗例があまりに多いのです。プロジェクトが頓挫したことによる直接的な損失ももちろん問題ですが、特に大企業の場合、一度大きな失敗をすると再チャレンジのチャンスが遠ざかってしまいます。

 説明責任を果たすことも重要です。経営者は、AIを活用した各プロジェクトのKPI(重要業績評価指標)を確認し、どのプロジェクトが具体的にどれだけ利益を生み出しているかを取締役会で明らかにしなければいけません。「データサイエンティストを何人雇った」というような報告ではコストのことしか分かりません。顧客に提供する価値や、企業の利益をどれだけもたらしたかを明確に説明できなければ意味がないのです。

  AIシステムを健全に保つ管理力も必要です。たとえば、新型コロナウイルスの感染拡大はあらゆるデータの意味を一気に変えました。交通にしろ、金融にしろ、もはや以前のデータからAIが正しい結論を導き出すことはできなくなっています。これほど大きな変化が起きることは稀だとしても、ビジネス環境は刻々と変化しており、それに合わせて調整しなければ精度は低下してしまいます。