大企業を変革する「コ・クリエーション(共創)」

── デザインプロジェクトの成否を分けるポイントはどこにあるとお考えですか。

 変革でもたらされる結果がそもそも企業の本質とかけ離れている場合、やはり成功は難しくなります。しかし、失敗の最大の要因は、なんといっても「企業カルチャー」です。そもそも大企業は変化に柔軟に対応できる企業文化を持っていないことが多いのです。株主は短期的な利益やリターンを求めますし、社内でも各事業のリーダーに四半期ごとに利益目標が設定されています。未来のためのビジョンが必要だということをどれだけ頭で理解していても、企業のカルチャーとしてそれを受け入れ、実現できる土壌がなければ何も変わらないのです。

 一方、成功するケースの共通点は3つあります。第一のポイントは「コ・クリエーション(共創)」が行われていることです。ソリューションを導き出すにあたって、私たちのようなコンサルタントと顧客企業、さらにその先のカスタマーが、ともに参加し、ともに創り上げていくプロジェクトは成功の確率が高いのです。

 第二のポイントは、顧客企業の従業員がリスクを積極的にとろうとすることです。プロジェクトに曖昧な部分があったとしても、従業員がそれを認めながら前向きに取り組もうという雰囲気があれば、ぐっと成功に近づきます。

 そして第三のポイントは、プロジェクトで生まれた新しいやり方が、既存のオペレーションにうまく導入できるかたちになっていることです。業務がスムーズに移行できれば成功の可能性も高まります。

── 「変化のカルチャー」のない大企業では、どのように変革を生み出すべきでしょうか。

 やはり「コ・クリエーション」が重要です。コ・クリエーションのためには、プロジェクトが適切な人材で構成されていなければなりません。大切なことは、積極的に変化を望んでいる人ばかりを参画させるのでなく、変化に懐疑的、あるいは批判的な人をプロジェクトに入れることです。大企業の組織構造は複雑で、実に多くの構成要素とパラメーターが存在します。そのぶん、さまざまな力学が働きますので、そう簡単に変革できませんが、きちんとステップを踏んで実行すれば変化は必ず起こります。

── 本書『信頼とデジタル』では「信頼」が重要なキーワードです。デザインアプローチにおいて「信頼」はどのように扱うべきでしょうか。

 先ほど私はデザインプロジェクトの失敗の要因に「企業の本質からの乖離」を挙げました。それはすなわち、顧客からの信頼を軽んじてはいけないという意味でもあります。さらに、そうした信頼関係も、まずはエンパシーがあるからこそ生まれると思います。プライベートな友人関係でも共感がないところに信頼は生まれません。多くのコンサルティング企業がそれを理解せず、共感のための時間をとらないことを不思議に思います。

── 企業が経営戦略にデザインアプローチを生かすための課題は何でしょうか。

 いずれどんな企業にも、エンドゲームの座標軸を再確認し、微調整するという作業が定期的に必要になると思います。そうなれば私たちの担う業務の意義も増していくと思います。しかし、大企業では往々にして部門ごとに製造やチャネル、ブランドなどが固定的に設計されています。モジュールで考え、それをいかに組み合わせるかといった柔軟な思考を促すためには、組織のアーキテクチャをより柔軟なものにする必要があります。サービスデザインがその力を最大限発揮するためには、まずはその点を見直すべきだと思います。