デザインを経営戦略と融合させる

── プロダクトデザイン以外の事例はありますか。

ユハ・クリステンセン(Juha Christensen)
Star Global Consulting 創設者・会長
シリアルアントレプレナー。 ロンドン大学ビジネススクール卒業。現在、Star Global Consultingのほか、Bang & OlufsenやCloudMadeの会長を務め、Netcompanyの経営にも携わる。また、Symbianの創設者兼上席副社長、Microsoftの副社長、Macromediaの社長を歴任。

 これもモビリティ関連ですが、ある日系自動車メーカーで、自動車業界を取り巻く環境が激変するなかで、将来に向けて打ち出すべき戦略策定に参画しました。その議論の過程で浮かび上がってきたのが、いまのようにテクノロジーがあふれる世の中では、テクノロジーはあまり目立たせない方がいいのではないか、という視点です。消費者のデジタル志向が高まっているからこそ、未来の自動車におけるデジタルテクノロジーには、必要な時だけ現れて、不要な時はバックグラウンドに隠れて見えなくなるようなふるまいがふさわしいのではないかと考えたのです。

 人が自動車に乗る場面には、二つのモードがあります。すなわち「運転手」として乗るか、「乗客」として乗るかです。自分が運転手なら最大の敵は「注意散漫」であり、車内環境のデザインにおいても運転以外に気を取られるリスクが最小限になるよう配慮しなくてはなりません。しかし、乗客として乗車する場合は、デジタルがもたらす便利さを自由に享受したいと考えるでしょう。実際に、自動運転技術の進化やライドシェアサービスの普及で、乗客として過ごす時間が増えています。自動車に乗ることの意味も、時代に合わせて変わっていくのです。

 このような議論を重ねた結果、未来の自動車のインターフェイスにふさわしい「未来のコックピット」を創造しよう、という結論に至りました。そして、「未来のコックピット」に必要な要素を抽出するために、自動車やモビリティに関連するありとあらゆるテクノロジーを洗い出し、適用可能な領域、搭載した場合のインパクト、将来想定できる普及率などに応じた分類を行いました。どの領域で何を伸ばせばいいのか、すべての選択肢を俎上に上げて検討したのです。

── まさに経営戦略と重なりますね。

 デザインアプローチは、経営戦略と並行して進めることで、より大きな成果が期待できると思います。経営戦略、デザイン、エンジニアリングは密接にリンクしたものであり、バラバラに行うと齟齬が生じてビジネスがうまくいきません。先ほどお話しした日系自動車メーカーのプロジェクトでも、どんなセールスチャネルがあり、どんな価格設定で、何を優位性として差別化していくのか、企業のケイパビリティをすべて把握し、全体を見ながら進めていく総合的なソリューションが必要です。