●見せる相手に合わせてデータを調整する

 緊急事態への準備と対応に当たる現場指揮チームのリーダーたちには、知らせるデータをあえて少なくすることにより、効率的な意思決定と集中的な行動を促した。

 ここで特に重視した指標は、人種、民族、言語ごとの陽性率だ。この指標を選んだのは、特定の弱い立場の人たちが不釣り合いに打撃を被っているという事実を、常に忘れさせないことが狙いだった。

 一方、公平性担当チームには、ICUへの入院患者数や死亡数など、これ以外の重要事項も示した。また、病院スタッフと患者の双方について、人種、民族、言語以外にも、年齢、性別、医療保険加入状況別のデータも確認できるようにした。

 これにより、公平性担当チームは、新たに浮上しつつあるリスクについて、現場指揮チームのリーダーたちに報告することができた。たとえば、英語を話せる中南米系の患者に比べて、英語を話せない中南米系の患者の死亡率が高いという前述の発見なども知らせた。

 ●病院スタッフに関するデータも忘れない

 病院スタッフに関するデータも収集し、人口統計上の属性ごとに分析した。

 すると、ある気掛かりな傾向が見えてきた。一部の現場スタッフ――具体的には、清掃・給食、資材管理、輸送、患者の世話、医療アシスタントなどの業務に携わる人たち――が、医師や看護師など、社会・経済的に地位の高いスタッフに比べて、検査を受ける割合が低い一方で、検査で陽性になる割合は10倍も高かったのだ。

 スタッフのデータと地域全体のデータを照らし合わせ、感染者と接触者(接触者追跡を行った)にも話を聞いたところ、この差は、市中での感染パターンの違いによるものだと判明した。

 院内で用いていた一般的な連絡手段(主にメールを使い、使用言語はたいてい英語だった)が、この層のスタッフにメッセージを届けるうえで最善の方法ではなかったこともわかった。

 そこで、病院の最前線で働くエッセンシャルワーカーたちを数人ずつ集めて、上層部との話し合いの機会を設けた。この場を通じて、現場のスタッフが困ったときに利用できるリソースについて周知し、疑問や懸念にも答えた。また、迅速に検査を受けるようにも促した。

 この話し合いの場には、DE&I、医療の質と安全性、感染症対策、人事の専門家が出席し、配布資料は5つ言語で作成した。参加したスタッフの数は、合計1000人を超えた。

 ●既存の医療の質・安全性関連のインフラを利用して、不平等を洗い出す

 医学研究、医療の質、安全性のデータも徹底的に収集・追跡し、人口統計上の属性ごとのデータを把握できるようにした。

 ブリガム・ヘルスは、「レムデシビル」という薬剤の新型コロナウイルス感染症に対する有効性を調べる研究の主要拠点の一つだった。現場指揮チームのリーダーたちは研究部門と協力し、社会的に恵まれない層の患者もこの研究に参加できるよう配慮した。その結果、対象患者の約60%が有色人種になり、30%以上は第一言語が英語以外の患者だった。

 医療の質と安全性については、医療の質・安全性・公平性に関する一貫的な報告システムを活用し、個々の安全性報告をもとに、医療の質に不平等が存在しないかを調べるようにした。

 新型コロナウイルス感染症患者の安全性報告が上がってくるとただちに分析し、症状が重い患者のデータを抽出し、共通する要素がある患者のデータを集計していった。そこから見えてきた懸念材料は、日々現場指揮チームに報告し、適切な対応を求めた。

 たとえば、一部の入院患者の通訳サービス利用を妨げかねない要素があることに、現場の医療スタッフが気づいていた。その問題が安全性報告に記載されたことで、症例検討が行われて、問題の根本原因がどこにあるのかが探られることになった。

 その結果、私たちの対策方針の問題点が一つ明らかになった。感染拡大防止のために、私たちは病室に立ち入る医師の人数を制限していた。しかし、それにより、回診の際に通訳者がベッドサイドに付き添うことが難しくなっていたのだ。

 この問題点に気づいた現場指揮チームのリーダーたちは、すぐにバーチャル通訳サービスの拡充に乗り出した。タブレット型端末のiPadを追加購入し、患者と通訳者がオンラインでやり取りできるようにしたのだ。この方法であれば、直接の対面を避けることもできる。