●行動の指針となる数点の重要指標に絞る

 感染拡大の初期段階で問題を予期していたブリガム・ヘルスは、DE&I(ダイバーシティ〈多様性〉、エクイティ〈公平性〉、インクルージョン〈包摂〉)や、医療の質向上、データサイエンスを担当する臨床と病院運営のリーダーたちを招集して、公平性に関するデータについて戦略を立案した。

 現場指揮チームに情報を提供し、行動の指針を示せるようにすることが狙いだった。ただし、情報過多になることは避けたいと考えた。そこで、業務運営を担うリーダーたちと協働して、行動の指針となる数点の重要指標に絞ることにした。

 選んだ指標は、私たちの組織が重んじる優先事項に関わる指標だ。たとえば、人工呼吸器やICU(集中治療室)の病床など、希少な医療資源へのアクセスの公平性を確保するために有益な指標に着目することにした。

 まず、図表を使ってデータをビジュアル化した。それらの情報には、スタッフやリーダーたちがオンライン・ソフトウェアでアクセスできるようにした。

 そこには、人種、民族、言語、性別、医療保険の加入状況、居住地、(医療従事者の場合は)役職など、属性別に見た陽性率などのデータを表示した。コロナ危機が深刻化する中で、入院患者数、ICUへの入院患者数、死亡者数、退院患者数などの指標も加えていった。

 ●「インターセクショナリティ」の視点でデータを見る

 きわめて有効だったのは、一定の条件を満たしたデータだけを抽出するためのフィルター機能を導入したことだった。これにより、新型コロナウイルス感染症における「インターセクショナリティ」を検討する道が開けた。

 インターセクショナリティとは、米国の法学者キンバリー・クレンショーが提示した考え方である。ある個人が持つ複数の社会的・政治的アイデンティティが重なり合い、相互に作用し合う結果、一部の人たちがひときわ過酷な抑圧を受ける現象を表現している。たとえば、黒人女性の置かれた状況がその例だ。

 昔だったら、新型コロナウイルス感染症の打撃について、黒人と白人、男性と女性といった比較だけで終わっていただろう。しかし、フィルター機能を用いることにより、黒人男性、黒人女性、白人男性、白人女性を比較することが可能になったのだ。

 これはきわめて強力なアプローチだが、十分に活用されてきたとは言い難い。私たちが今回明るみに出した不平等の実態は、この方法を用いていなければおそらく見えてこなかっただろう。

 たとえば、英語を話せない中南米系の患者は、英語を話せる中南米系の患者よりも死亡率が高いことがわかった。リスク調整を行って分析してみても、このデータの正しさが裏づけられた。それを受けて、私たちは医療の質を高めるための取り組みに着手し、患者が通訳サービスを利用しやすくした。

 また、フィルター機能を使って地区別のデータを抽出して、それをマップ化し、検査で陽性になる人の割合を地区別に割り出してみた。すると、歴史的に有色人種の居住者が多く、所得水準が低い地区は、白人中心の裕福な地区に比べて検査を受ける人の割合は低かったが、陽性になる人の割合は高かった。この点は、州レベルのデータ、マス・ゼネラル・ブリガムのグループ全体のデータ、そして現場で関係者が感じていることとも一致していた。

 そこで、ブリガム・ヘルスは地域のパートナーと協力して、感染者の多い地区に無料検査センターを開設した。3ヵ月間で検査を受けた住民は5800人を超す。

 この検査センターを通じて、健康の社会的決定要因に関するスクリーニングも7500件以上実施した。それにより長期・短期のニーズを明らかにし、ニーズに対応するために、マスク、食料、食料品店のギフト券、おむつやウエットティッシュなどの必需品を配布した。