顧客を起点に、新たな企業立地を築く

──その流れに対抗するためにも、大企業にとっては、自らの強みを生かせる「顧客価値リ・インベンション戦略」が有効ということですね。

山口重樹
NTTデータ代表取締役副社長執行役員。公共・社会基盤分野、法人・ソリューション分野、中国・APAC分野担当。1961年兵庫県生まれ。84年一橋大学経済学部卒業、同年日本電信電話公社入社。2013年 執行役員法人コンサルティング&マーケティング本部長、2016年常務執行役員 ITサービス・ペイメント事業本部長、2017年取締役常務執行役員を経て、2018年6月より現職。共著書に『デジタルエコノミーと経営の未来』(東洋経済新報社、2019年)、『信頼とデジタル』(ダイヤモンド社、2020年)がある

 最も大切なのは「顧客の課題に向き合い、それを解決すること」です。言葉にすれば当たり前ですが、なぜ今それが大事かといえば、デジタル技術とデータを活用することで、これまでは手間とコストがかかり過ぎて不可能だった「真の顧客課題の解決」が実現可能になっているからです。言い換えれば、本当の意味で自社の強みを生かせる時代がようやく到来したのです。

 最新のデジタル技術をどれだけ取り入れても、これまで人間が担ってきた仕事をそのままデジタルに置き換えるだけでは、顧客に提供する価値そのものは広がりません。ところがデジタルの力を生かして、より顧客課題を深く掘り下げ、提供価値を「リ・インベンション」することができれば、顧客との間に他社に代替できないかけがえのない信頼関係を築くことにつながります。繰り返しになりますが、そのためには自社や商品・サービスの価値ありきでなく、常に顧客を起点にして考えることが大切です。

──具体的には、どのように取り組みを進めるのでしょうか。

 大きな流れとしては、顧客の課題と提供価値を見直しつつ再定義し、継続的な価値提供を実現するための能力と体制(構え)を築き、持続可能なビジネスモデルを策定し、実行するという形になります。

「デジタル時代にふさわしい事業立地の築き直し」ともいうべき取り組みですから、かなり丁寧に進める必要がありますし、ここで一口には説明できませんが、本書では実務の現場で編み出した方法論を、事例を交えて詳しく紹介しています。特に重要なポイントについて「7つの観点」として、独自のフレームワークを示していますので、ぜひ多くの経営者に参照していただきたいと思います。

──戦略を成功させるために経営者はどのような意識を持つべきでしょうか。

 経営者自身がコミットする姿勢を明確に示すことが重要だと思います。顧客への提供価値を事業の中心に据えるためには部門の壁を越えて意識を共有する必要がありますから、経営者が自ら旗を振らなければうまくいきません。私自身の実務経験でも、DXが成功する企業は例外なく経営層が主導権を握って組織全体のモチベーションを高めていました。

 ただし、戦略の実践に当たって、顧客価値を最大化するために、どこにどんなテクノロジーを適用すべきかを計画するには、テクノロジー全体を広い視野で見渡した上で適材適所を判断する「デジタルの目利き」の力が不可欠です。これは事業会社だけでカバーするのは難しい部分なので、私たちのような多くの専門家がいる企業がお役に立てると思います。私たちは変化し続ける環境の中で新たな事業立地を絶えず開拓しようとする顧客企業にとって、信頼できるパートナーとしてお役に立ちたいと考えています。