デジタルが浮き彫りにした大企業の課題

──そもそもデジタルはビジネス環境をどのように変えたとお考えでしょうか。

 私は「デジタル化」を、3つの側面で捉えています。多種多様な情報がデジタルに変換される「データ化」、あらゆる人やモノがデジタルネットワークにつながる「コネクト化」、そして、膨大なデータを瞬時に処理する「アルゴリズム化」です。そして、こうしたデジタル化の本質は、これまでビジネスのボトルネックとなっていたさまざまな制約を取り払うことにあります。データ化とコネクト化は、時間や距離の制約を取り払いますし、アルゴリズム化は人間の手に負えない膨大な情報を瞬時に処理し、人間の認識能力という制約すら取り払います。

 デジタル化がビジネスにおけるあらゆる制約を取り払っていく、という巨大な潮流は、経済活動を一定の方向に動かす強い力を生み出しました。本書では、この力を「デジタルエコノミーの3つのドライバー」として、その影響について説明しています。「あらゆるところに市場を創り出す」「不確実性をビジネスチャンスに変える」「新たなサービス・製品の原材料となる」の3つです。

──それぞれについて具体的に教えてください。

 第一のドライバーは「あらゆるところに市場を創り出す」です。ウーバー、エアビーアンドビー、メルカリといったシェアードエコノミーにおいて、これまでは市場で取引することが難しかった細切れのマンパワー、家や車の非稼働時間、ごく私的な所有物まで活発に取引されていることを見れば明らかなように、デジタルの力は市場をどんどん生み出し、何でも商品にしてしまいます。誰もがスマホを持ち、常にネットワークにつながり、買い手と売り手がすぐマッチングできる世界では、取引にかかるコストが大幅に下がり、市場参入のハードルがかつてないほど低くなりました。

 第二のドライバーは「不確実性をビジネスチャンスに変える」です。データを活用すればさまざまな分野で精度の高い予測ができるようになり、かつては不確実性の高さ故に参入が難しかった領域に、多くのビジネスチャンスが生まれています。ネット上の取引データを活用して貸し倒れリスクを抑えながら適切な利率を設定できる金融サービス「トランザクション・レンディング」などはその例といえるでしょう。

 第三のドライバーは「新たなサービス・製品の原材料となる」です。今、どんな製品にもソフトウエアやデータが組み込まれるのが当たり前になっています。ハードとソフトを融合させた製品は購入後もアップデートが可能になり、顧客との関係も「売れば終わり」という一過性のものから、継続的な関係へと変わります。ネットワークにつながっていることを前提に、機能をどんどん更新していける自動車「コネクテッドカー」はその一例です。

──これらのドライバーは多くのベンチャー企業の成長の原動力となっています。

 その通りです。そして同時に、大企業の競争優位を無効化しています。

 あらゆるところに市場が生まれると、大企業の調達力や販売力、ブランド力といった強みは意味を失い、むしろ硬直的なバリューチェーンの存在が、価格面でもスピード面でも競争力の低下を招きます。また、不確実性に対応するために大企業が磨き上げてきたリスクヘッジの仕組みは余分なコストとなって経営を圧迫します。さらに、製品価値の重心がハードの有する機能から、ソフトがもたらす体験に移ると、大量生産や品質管理に秀でた大企業の強みを生かしにくくなります。これらの変化にあらがうのは不可能ですし、この流れそのものは今後も加速するでしょう。