サイボウズの概要

 サイボウズは1997年、青野慶久現社長を含む3人で創業した。その後、2000年にマザーズに上場する。急速な成長は社内にひずみを生み、その改善のために「ボトム2%に退職推奨」などを含む成果主義を導入するが「他人の仕事を手伝わない」「目標を低く設定する」ことが蔓延した。

 2005年4月に社長に就いた青野氏は、3年で売上げを2倍にするという目標を打ち立て「手当たり次第」にM&Aを仕掛けた。その結果、売上げは伸びたものの利益率は大きく落ちたばかりか、「社内のマネジャーやリーダーたちと前向きな議論さえできず、会社の雰囲気は悪化していた」。2006年1月期には退職率が28%を記録し、2007年には共同創業者の一人が会社を離れるなど、社内はカオス状態だったという。

 この失敗から自分に「真剣さ」、つまり命がけでやる覚悟が足りないと悟った青野社長は、「世界で一番使われるグループウェア・メーカーになる」ことをミッションとして定め、その本質である「チームワークを高める」を自社でも実現できるようにと舵を切る。そのメッセージをグループウェアで社内共有したのは、2007年2月26日である。

 徹底した情報共有を推進

 ミッション実現に人事担当として取り組んだのが、日本興業銀行出身で10人目の社員であった山田理氏である。

 山田氏は社員90人全員と「雑談」することを進め、「メンバー全員を一度にハッピーにする施策なんてどこにもない」「みんなを同じように動かそうとするのは間違っていた」「みんながではなく、100人100通りで働きたいと思う会社を作る」という結論にたどり着いた。これまでは情報の上位職者への偏在によって、「誰が何のプロフェッショナルなのか」「誰が何をやりたいといっているのか」がわからなくなっていたのである。

 成果至上主義を捨て、働き方至上主義に変えることによって、社員が自分で考えるようになり、会社の業績も改善した。山田氏の「雑談」の成果はそれだけにとどまらない。次の3つの大きな発見もあった。

(1)部下の不満は見えないから怖い。見えるようにすれば怖くなくなる
(2)チームが「おかしいとき」って情報が共有されてないとき
(3)「情報の徹底公開」こそがマネジャーの仕事を激減させる

 情報を持つ上司の地位的パワーによるコントロールと、情報を持たない現場社員の自信と自主性の欠如が、社員のやる気と実力発揮を奪い、「団体戦」として戦う構えができていないのが、それまでのサイボウズの現実だった。興銀を飛び出した理由の「理不尽なお作法」が蔓延していたのである。

 そうした気づきに基づき、具体的には以下のような情報共有が推進されるようになった。

・事業戦略、新製品、新しい人事制度など、検討中のものも含めて
・メンバーごとの経費申請
・メンバーごとのスケジュール
・経営会議議事録の8割
・各部門から自己申告された予算
・給与交渉の過程(全員ではない)
・メンバーの希望する働き方(「働き方宣言」)
・社内求人票(「やくわリスト」)

 こうして「性悪説」に基づいた管理から「性善説」に基づいた情報公開によって、管理業務が激減することになった。「公明正大」「アホはええけど、ウソはあかん」こそが社員も会社も幸せにすることがわかったという。青野社長が伊那食品工業[注8]の塚越寛社長と「永続するいい会社の作り方」というテーマで対談[注9]した際、この点について一致していたのは興味深い。

 社員の報酬は市場価値で決める

 もう1つサイボウズで有名なのは、人事評価をやめて市場価値で報酬を決めることである。これはネットフリックスのやり方に近い。

 成果主義も360度評価も失敗し「サイボウズの給与制度は失敗と試行錯誤の歴史」という青野社長は多様性と公平性は両立しないと悟り、他社に転職したら報酬はどうなるかという「市場性」で決めることにした。そして「給与制度と切り離した途端、目標管理は自分の成長を引き出すための便利なツールに代わり、業務にやりがいを与えてくれる」ようになったという。

 こうした情報公開と並行して、サイボウズでは「100人100通り」の働き方を目指して在宅勤務制度、副業許可などさまざまな人事制度を採用している。「チームワークにあふれる社会を創る」ことに貢献するならば認め、会議室にキッチンをつくったり、空き時間に仕事をするときの「カフェ代補助」制度を設けたりした。

 伊那食品工業の塚越社長が2014年に言った「利益はカスだ」[注10]という言葉に衝撃を受け、社員の幸せのために投資をし「上場企業なのに利益を出さない会社にしたら、株主はじめ、周囲の反応がどうなるかを実験」もした。

サイボウズの業績推移

 

 実際、業績推移を見るとわかるように、2014年の経常利益は前年比97%減のわずか700万円、翌2015年は職場環境の改善を目的にした東京オフィスを移転したこともあり、約3億9000万円の赤字を計上している。しかし、その結果「驚いたことに、いい株主が増えた」という。ネットフリックスが赤字に耐えながら、ストリーミングへ投資し続けたことを思い出させる。